〈我ハ“八代”ナリ〉-8
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日本から出立した次の日の夕方には、もう二人の男は目的地である某国に着いていた。
貨物船の遅い足では数日も掛かる距離でも、航空機なら苦もなく到着出来る。
既に二人は、港を見渡せるホテルにチェックインを済ませ、予約していた最上階の部屋の窓際に立って、船の往き来を眺めている。
日射しは傾き、暑さは和らいでいるとしても、きっちりと黒いスーツを纏う姿というのは、何とも異様であった。
『……あれか?』
『……ああ……あの船だ……』
漆黒の怪物は、狭い港の主のように、その巨体を横たわせている。
原木を抱えたローダーがひっきりなしに走り、船に備えられたクレーンが、甲板に原木を山と積んでいく。
あの様子からすれば、出港は翌朝なのは間違いないだろう。
『バラバラにした拳銃を、機械部品に偽装して送る手筈は出来てるが……重火器までは無理だぜ?』
パートナーの呟きは尤もだ。
貨物船の乗組員を陸地で殺すなら、拳銃で事足りるだろう。
しかし、いくら人間の命の価値が低い国だとしても、貨物船の乗組員全員が射殺体で発見されたのなら、大騒ぎになるのは火を見るより明らかだ。
だからといって、拳銃の弾などで貨物船は沈められやしないし、人目の無い沖に出てから射殺しようにも、“足”の無い二人には打つ手無しだ。
『……俺に任せておけ。当てはあるんだ』
八代は窓から離れると、ベッドにゴロリと横になった。
『明日だ……何も焦る必要はない……』
窓の外は真っ赤な夕日に染まっていき、怪物は闇の中に埋もれていった。
宝石を撒き散らしたような星空などに一瞥もくれず、二人は運ばれてきた“機械部品”を組み立て、安っぽい食事を簡単に済ませた……。
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『また女っ気無しの暇な船旅かぁ……』
翌朝、空は見事なまでの快晴であった。
広がる水平線まで浮かぶ船がクッキリと見渡せるくらいに、ガスも掛かってなければ白波も立ってはいない。
作業着に着替えていた専務は、胸いっぱいに潮風を吸い込むと、タラップを上っていった。
甲板から溢れんばかりに原木は山となっており、それは今回の獲物達が気に入られた証でもある。
『………』
専務は振り返って、景色を眺めた。
灰色のコンクリートで出来た港の先には、同じ色をした壁が聳え立ち、その周囲には雑木林が生い茂り、そしてボロボロな家屋が並んでいる。
その向こうには鬱蒼とした森林が続き、それは空まで達しようかと思うくらいに枝葉を伸ばしていた。