レ-1
帰りの車の中でなんとなくムッとした顔をしていたら
「俺がオーナーだと気に入らないか?」
と苦笑いした。
私は、豪と付き合っている訳じゃない。
付き合おうなんて言われてない。
横浜に帰る女を抱きたくないとまで言われた。
だから。
知らなかった事に腹を立てる権利は・・・ない。
「ビックリしただけ」
「そうか」
運転のための素面の豪と
ビール1本でも軽く酔う私ではなんとなく分が悪い。
「オーナーシェフだった親父から譲り受けた店だ。
俺は料理人になることよりも、その前の段階の
野菜を作る農家を選んだ。それだけだ」
「・・・・」
「俺の野菜はあのレストランにしか卸していない。
回せるのは後2店舗分だけだ。響子が望むように3店舗は無理だ。
それでも良いのなら、契約しよう」
「なんで急に契約する気になったの?」
「ん?契約したくないのか?」
「昨日、私が寝たから?」
「そう・・・だな」
「へぇ・・・私の身体も役に立つんだ」
泣くな。
狭い車の中で・・・・
泣くな。
膝の上で結んだ手は、泣かないようにぐっと力を入れた。
ここにお世話になってから
爪は短く切りそろえた。
痛くない手のひらに
すっかりこの生活になじんでいる自分に気が付く。