第十七話 死者の扱い-2
「木田! 木田一等兵! おい!」
杉野と笹川は、二人で木田を担いで後方の陣地に飛び込んだ。木田に声を掛けるが、彼はすでにこと切れていた。
「すまん、木田。許してくれ」
涙を呑んで杉野は、木田の背嚢から乾パンの袋を取り出し、次に身体から水筒を外して中の水を一口含んだ。
「伍長殿、何を」
隣で河田一等兵が、信じられないというような声を出した。河田を押しのけて片野が、破損した弾薬入れを漁り、中から無事な弾薬クリップを数個取り出した。
「上等兵殿まで、何をなさるんですか!」
物静かな河田が、珍しく声を荒げた。その抗議の声を聞いた片野がすくっと立ち上がり、河田に木田の弾薬クリップを無理やり握らせた。
「上等兵殿?」
「木田一等兵は、名誉の戦死を遂げた。しかし、俺たちはまだ生きてる。生きてる限り、敵からこの島を守り抜かなけりゃならない」
はっとなった河田の目から一筋の涙が流れ出し、渡された弾薬クリップを強く握りしめる。そんな河田の胸倉を掴んで、さらに片野は言葉を続ける。
「泣いてる暇があるなら、戦死した戦友の分まで戦い抜け。戦死者から装備を分捕ってでも、俺たちは戦わなくてはならんのだ!」
片野の言葉を聞いた皆が、次々と木田の遺体から使える物をはぎ取る。弾薬、手りゅう弾、銃剣、戦闘食、腕時計など、様々な物をはぎ取り、それぞれ分け合う。口々に遺体に謝りながら、涙を流しながら。
あらかたの装備品を、木田の遺体からはぎ取り、残っているのは軍服と、背嚢に入っていた私物が若干あるくらいとなった。最後に、杉野が木田の首に掛けていた認識票をとり、自分の胸ポケットに入れた。
木田の遺体は、埋める暇などもないため、陣地のそばの草陰に安置するしかなかった。
陽は西へ傾きはじめ、夕焼けの朱色の明かりが、杉野の目から溢れそうな涙に反射して光ったが、それに気づく者は誰もいない。