ヒカリゴケ-1
彼らには、人間が言うところの‘悪魔’のような羽がありました。
彼らは遥か宇宙を旅して、住処にできる星を探しながら、ここまでやって来ました。
そして今、病人みたいに青白い星の縁(へり)から頭半分だけを出して、そこから青い星を眺めていました。
「それにしても、青くてきれいな星ですね。」
偵察に出されたふたりのうち、若いほうが、うっとりとつぶやきました。
「あの青色は、海だろうな。つまり、まず水は豊富にあるって事だ。」
ふたりのうち年上のほうが、訳知り顔で答えました。
「それに所々にかかっている白色は、雲だろう。海の水が蒸発して、それがこり固まってああなっているんだ。」
年上のほうは、そう言ってなけなしの知識を披露しましたが、若いほうは頭が良くないので、まだ青色のことを考えていました。
「あれが全部、海ですか。じゃあ私たちが住む地面は、じゅうぶんにありますかね?」
「なぁに、ざっと見たところ、海と陸が7:3ってとこだろう。あの星は、ざっと見たところこの星よりけっこう大きく見えるから、3割でもけっこう広いさ。」
年上は、自分の答えがけっこう曖昧になってきた事には気付いていたので、ついでに色々、聞かれない事まで答えておきました。
「ほら見ろ、陸のところに緑色があるだろう。あの緑色は、森だ。つまり真水があって、空気があって、住むのに都合がいいって事だ。少しばかり、赤茶けたところが多すぎる気もするが、なぁに、けっこう広いんだから大丈夫だろう。だが、上のほうと下のほうは駄目だな。あの白色は、雪だ。住もうにも、寒くって凍えちまう。」
年上のほうが、また頑張って知識を披露しましたが、若いほうは、今度はもう別のことを考えていました。
「でもあの星は、少し明るすぎやしませんか?」
これには、年上もうなずきました。
「む、そうだな。目下のところ、そこだけが難点だ。あんなにギラギラ燃える、大きい星が近くにあってはなぁ。」
実のところ、彼らは明るいところが苦手でした。故郷の星でも、ほら穴なんかに寄り集まって暮らしていたのですが、いい加減きゅうくつになってきたので、新しい住処を探しに来たのでした。
「それに、水もあって、空気もあるなら、やっぱり先住民もいますかね?」
「なぁに、別にあの星を乗っ取って、支配しようってわけじゃないんだ。適当なほら穴とか、物陰とか、そこを貸してもらえる話さえつけば、仲良くやっていくさ。」
彼らは、‘悪魔’みたいな風貌のわりには、けっこう平和的でした。
「でもそれにしても、ちょっと明るすぎますよねぇ…。」
「むぅ。かと言って、あの燃える星をなんとかするのは無理だしなぁ。とにかく、もう少し偵察していこう。」
そんなわけで、ふたりは燃える星から射す光になるべく当たらないよう、ちょっとずつ場所を変えながら、頭半分だけ出して偵察を続けました。
それは何日も続きましたが、暗いところでじっとするのは性分なので、特に苦にはなりませんでした。
それにそうするうちに、青い星が端のほうからだんだん暗くなってきたのには、ふたりとも大喜びしました。
「これはうまいぞ。燃える星が動いてくれているせいか、青い星には、光の当たらない場所ができる。とすると我々は、あの星の半分までなら、いつでも自由に飛び回れるってわけか。」
故郷での、ぎゅうぎゅう詰めのほら穴生活を思うと、これはとんでもない好条件にみえました。
しかしそのうち、青い星全部が暗くなりましたが、そこまでくると、今度はふたりとも、がく然としてしまいました。
「こんなに暗いのに、なんだってこんなに明るいんですか?」
若いほうは、気が動転して言いました。でもそれは、ある意味では的を射ていました。
真っ暗な星の上、その所々が、ぴかぴかと真っ白く光っていたのです。
「むむぅ…。」
年上は、腕組み――正確には‘羽組み’――をして唸りながら、その光景を凝視しました。そしてなけなしの知識を総動員し、色々と考えて、こう答えました。
「あれは、ヒカリゴケだ。」
「あれが全部、ヒカリゴケですか?」
若いほうは、故郷の星のほら穴でも見かける、ぴかぴか光るやっかいなコケのことを思い出しながら、もう一度、今は青くない暗い星を見下ろしました。
なるほど、地面にべったり貼り付いてペカペカしているその光の群れは、なんとはなしに、有害で忌々しい、コケやカビの類に見えてきます。
「困りましたねぇ…あんなにピカピカ、けばけばしく光られては、私たちには住みにくくって仕様がないです。」
「うむ、これは一大事だ。さっそく偵察を切り上げて、本隊に戻って報告しよう。」
偵察隊のふたりは、星の縁(へり)から頭を引っこめて、そそくさと帰っていきました。