第十六話 狙撃手の戦い-3
「ちっ……数が多いな。当然か」
敵は一度撃退されている。数を揃えてくることは常識の範疇だ。
分隊の陣地から少し奥に外した位置で、今野は岩を盾にして狙撃を行う。岩の影からほんの僅かに顔と銃を出して、できるだけ敵に見つからないように務めた。
カキン!
狙撃のため、岩陰から顔を出した今野の目元ギリギリに銃弾が当たった。銃弾を受けた岩が破片を散らす。
「見つかったか!」
危険を察知した今野は素早く身を屈めて岩から遠のき、近くの木の根元に身を伏せた。居所を突き止められれば、そぐにその場を離れるのが狙撃手の鉄則だ。
「なんとか巻いたか?」
今野は膝立ちになって少しだけ顔を出した。すかさず銃弾が襲い掛かってきた。ここも特定されていた。
「どこだ? どこにいる?」
今野はまたもや身を屈めながら場所を変え、今度は立ち枯れた木の影に潜んだ。
飛んできた銃弾は一発。ということは集団に狙われているのではなく、敵の狙撃手に狙われているということかな……? 今野は頭を回して、状況を整理した。
岩陰から木までの移動を見られていたということは、それなりに開けた場所に身を隠している。ジャングル内のそんな場所は限られているが、相手の姿を見ていないので、特定まではできない。では、どうするか? 隙を見せて誘ってみよう。発砲炎さえ見逃さなければ発見できる。
今野は腰の銃剣差しから銃剣を抜いて、左手で持って木からそっと出した。右手はすぐに射撃できるよう、引き金に指を掛けて銃を持っている。
銃剣を何度か上下に振って太陽光をあえて反射させ、見つけやすいように誘ってみる。
バキッ!
目論見通り、敵は出した銃剣めがけて銃弾を放ってきた。弾はわずかに銃剣を逸れ、枯木に穴を空ける。
「そこだな!」
今野は見えた発砲炎に向かって、素早く銃を構えて銃弾を放った。
銃弾は惜しくも外れ、敵狙撃兵の盾にされていた木をかすめた。木の影から人影が去るのが見える。
走る人影に狙いを定めてすかさず二発目を放つ。しかし、二発目も仕留めるには至らず、空しく木に当たって破片を散らした。
「外した!」
今野も銃剣を閉まって枯木から飛び出し、場所を変える。走る間も決して敵の狙撃手からは目を離さない。今野は先ほどとは別の岩陰に身を隠すと、素早く銃口を出して狙撃手を狙った。
パン!
銃弾は見事に移動中の敵の鉄兜を捉え、血しぶきをあげて相手は草むらに倒れ込み、姿を見せることはなくなった。
「ふぃー。腕が落ちたかな」
独り言をいいながら今野は、銃撃戦で空になった弾倉に、弾薬クリップに入った五発実包を込めて、弾薬を銃に装填した。
「一度、分隊陣地に戻るか」
今野は乾パンを一つだけ口に入れると、離れていた分隊陣地に向かって移動し始めた。