私の王子様-1
懐かしい濃い水の匂いが届いた。
(ウィルの匂いだ)
かつて愛した女性の匂いに、デレクシスはボンヤリと目を開ける。
並んで横たわっている彼女は、半身を起こしてデレクシスの髪を梳いていた。
ああ、夢か……と思いつつ、覚めたくなくて少し開けた目を閉じる。
「……ウィル……そのまま、聞いてくれるかい?」
彼女は返事の変わりにデレクシスの髪をキュッと握った。
「ウィル、君を愛してる」
再び髪をキュッと握られる。
「それに変わりはないけど……ジェノビアも同じくらい愛してるんだ」
髪を握った手が滑り、デレクシスの頬を撫でた。
「愛してる……アタシの王子様……」
頬を撫でながら伝えられた声に妙な違和感を覚え、デレクシスは眉を寄せる。
しかし、眠気が勝ってしまいそのまま深い眠りの世界へ引きずり込まれてしまった。
次に目が覚めた時は既に朝だった。
横でスヤスヤと眠るジェノビアを眺めながらデレクシスは昨夜の事を思い出す。
張りのある初々しい肌、色素の薄い立ち上がった乳首、トロリと蜜を吐き出す卑猥な秘部、お気に入りの柔らかい金髪は汗ばんだ肌に張り付いてしなやかな身体を縁取っていた。
羞恥と快楽に赤く染まった顔も、必死にしがみつく腕も、自分に絡み付いてくる脚も、何度も高みに昇る身体も、何もかもが愛しく感じた。
(可愛い可愛いお姫様は、愛しい愛しいお姫様になっちゃったねえ)
デレクシスはだらしなく緩んだ顔でジェノビアのフワフワの髪を撫でる。
そして、昨夜の事をもうひとつ思い出した。
(ウィル)
昔、500年前に時間移動をして、そこで愛した女性、水の精霊人ウィル。
彼女と過ごしたのはほんの短い間だったが、愛するのに時間は関係なかった。
いつか離れてしまうだろう確信の中で濃密な時間を過ごし、愛を育んだ。
結局、デレクシスだけが元の時間帯に戻ってしまったが、ウィルが幸せな生涯送った事は彼女と共に過ごした彼女のパートナー水の精霊ポゥが保証してくれている。
だから自分も幸せにならなければならない、それがウィルの望みでもある……と思いつつも、やり場のないどうしようもない気持ちのままで長い時間を過ごしていたのだ。