私の王子様-8
「その時代でね、デレクシス様は1人の精霊人を愛したの」
この話はデレクシスと親身な付き合いをしている者しか知らない。
「水の精霊人でね。とても可愛らしい娘さんだったんですって」
話が進むにつれてジェノビアの心臓がせわしなく動いていく。
「デレクシス様が過去で過ごした時間は1ヶ月。その短い間に愛を育み、2人の間には子供も出来たわ」
シッテル
ジェノビアの頭の隅で誰かが囁いた。
「2人の子孫が……もうお亡くなりになったけど、魔法大国ゼビアの水の魔導師様なの」
シッテル……アタシノコドモタチ
ジェノビアの頭の囁きが段々と大きくなっていく。
「とても短い期間で濃厚に愛しあったんですもの……そう簡単に忘れる事なんか出来やしないわ?デレクシス様があの年齢で独身なのは、愛する女性がまだ心に残っているからなの」
エエ、アイシテル……アタシモ、アイシテルワ
頭の中で囁きが共鳴し、ジェノビアはこめかみに手を当てる。
その様子を見てステラは深く息を吐いた。
愛する男性に忘れ難い女性が居るのはショックだろう。
「……それでも、貴女がデレクシス様を愛するというなら……お母様は応援するわ」
ステラはそう言うとジェノビアの目の前に飴玉を置いて部屋を出て行った。
1人残されたジェノビアは頭の中で繰り返される囁きを抑えるように、頭を抱えてうずくまった。
「はあ〜ん?長いヘタレ期間だったなあ、王子さんよ」
とりあえず城下町にある馴染みの魚屋に避難したデレクシスは、そこの店主に上から目線で馬鹿にされていた。
「と、いうことは?」
「あんな?誰だ見たってベタ惚れだっつうの、このロリコン」
魚屋の店主はデレクシスを幼女趣味だと言い放つ。
周りの人達から見たらバレバレなのに、何で自分では気づかないのだろう……と、自分の鈍感さにデレクシスは呆れた。
「得てして恋とはそういうものでしょう?」
そこへ美味しそうなお茶と香ばしい香りのお菓子を持って現れたのは、店主の奥さん。
店主よりかなり年下な奥さんは、左手で赤子を抱きかかえつつ右手で器用にお盆を運んできた。