私の王子様-5
しかし、産まれてからずっと抱いてきた恋がやっと実ったのだ。
情けなく取り乱しても仕方ないのかもしれない。
ジェノビアの頭の中では昨夜の出来事が繰り返されていた。
逞しいデレクシスの『男』としての腕、ジェノビアを『女』として扱う指先、捕らえて離さない意地悪で大好きな水色の瞳。
思い出す度に恥ずかしくなったり、嬉しくなったりとジェノビアは大忙しだ。
トントン
そこへノックの音が響き、ジェノビアはガバッと飛び起きる。
「ノービィ?お母様だけど、良いかしら?」
「ははははいっ!あ、いえっ!ちょっと、ちょっとお待ちになって!!」
ジェノビアは大慌てで淫らな情事の名残満載の部屋を魔法で清め、これまた魔法でキチンと服を着替えて薄化粧を施した。
ぐるっと部屋を見渡して鏡で身なりを確認すると、自ら扉を開ける。
「おはようございます。お母様」
ジェノビアは満面の笑みで母親ステラを部屋に招き入れた。
ステラはふんわり微笑むと、パチンとウインクする。
「ふふふ〜?ノービィ?」
何もかも知っている、というステラの言葉にジェノビアは顔を赤くしながらもはにかみながら微笑みを返した。
部屋に入ったステラはくるくるっと指を回してジェノビアに合図する。
「!……結」
合図に気付いたジェノビアは部屋に結界を張った。
同時にステラに抱きつき、ぴょんぴょん跳ねながら身体全体で喜びを表現する。
「お母様、お母様、お母様っ」
「はいはい、分かってるから」
ステラはジェノビアの背中をポンポン叩き、ソファーに座るよう促した。
ジェノビアは素直にソファーに座り、子供の様に足をパタパタさせて母親が入れてくれるお茶を待つ。
王弟の妃になる前は城の召し使いだった母のいれるお茶は絶品なのだ。
しかし、今日のお茶は何だか泥苦青臭い気が……と鼻に皺を寄せたジェノビアの前に、ステラがにっこり笑顔でカップを差し出した。
「はい♪疲れた身体がスッキリする薬湯♪」
「う゛」
差し出されたそれはファンの城に伝わる薬湯で、破滅的に不味い代物。
「ふふ♪破瓜おめでとう♪」
にっこりニコニコしているステラの目は……全然全く笑っていなかった。