私の王子様-3
殺気は離れの方向、つまりデレクシスの前方から湧き出る様に流れてきている。
「誰だ!?」
デレクシスはいつでも対処出来る様に指で基本の印を結ぶ。
攻撃魔法、防御魔法、どちらにも即座に対応できる基本の印は魔法使いにとっても基本中の基本。
『違っ……とにかく逃げろって……!』
ザックが焦りまくって忠告するが、デレクシスは動かない。
ファンの城内でこんな殺気を放つ人物?を逃しては危険極まりないからだ。
(いったい何だ?)
ザックの焦り具合と、とにかく逃げろの忠告にデレクシスは驚異を感じる。
「ふふふ……誰だ、とは冷たいお言葉ですね……」
回廊の柱の影から障気を纏って現れた人物を見た瞬間、デレクシスは足元が崩れた錯覚を覚えた。
「き……貴殿はっ」
「ふっふっふ……我が愛娘の具合はいかがでしたかな?デレクシス……いや、軽薄王子殿?」
「ギ、ギ、ギ……ギルフォード……殿」
その人物はファン王弟ギルフォード……ジェノビアの父親であった。
彼の右手には首をキュッと掴まれたザックが、情けない表情でプラ〜ンとぶら下がっている。
デレクシスの身体の毛穴という毛穴が全て広がり、何とも嫌な汗が吹き出した。
父親ギルフォードにはジェノビアと2人で報告をしようと考えていた矢先……とっくにバレていたのだ……デレクシスがジェノビアに手を出した事は。
「言い訳も言い分も聞く気は無いから」
地獄から湧き出る様な低い声に、吹き出た汗が凍りつく。
何か言わなければ、と思うのに金縛りにあったかの様に動けない。
『……だから言ったのに……』
ザックがポツリと呟いたが、あの注意の仕方じゃ分からない。
誰か凍りついた空気を溶かしてくれ、とデレクシスが切に願っていると、意外な人物がお湯をかけてくれた。
「いけませんよっギル様っ」
ぺしっ
ジェノビアそっくりの声で注意したのは、母親であるステラだった。
ちなみにぺしっという可愛らしい音は、ステラが背伸びしてギルフォードの後頭部をはたいた音だ。
「……ステラ」
「こんなに握りしめたらザックさんが可哀想ですわ」
ステラの言う通りギルフォードに首を絞められたザックはぐてんと身体を伸ばし、いつもは鮮やかな羽の色も艶がなくなっている。