私の王子様-16
騒ぎから数時間後
「あ、ジェノビア。これ、遅くなってしまったけど成人のお祝い」
デレクシスは懐から小さな箱を取り出した。
「まあ。何ですの?」
「開けてみて」
小さな箱の中には深い蒼色の宝石が付いた指輪がおさまっていた。
「指輪!!」
「改めて、成人おめでとうジェノビア」
ジェノビアは瞳をキラキラさせて小箱におさまったままの指輪を見つめる。
「クラスタの黒海にしかない鉱石でね、元は黒いんだけど磨くと蒼になるんだ。ジェノビアの……目に似てるなって思って採ってきたんだ」
「ご自分で?!」
普通、こういうものは専門家に任せるものだが。
「?うん。だから遅刻してしまったんだ。ごめんよ?」
「……ちなみにお聞きしますけど、お兄様には何を?」
「クラスタ限定の植物」
「それもおじ様が?」
「まさか。テオドアに頼んだよ?」
「…………」
「?」
じわあっと赤くなるジェノビアを不思議そうに見るデレクシス。
「おじ様……見事な天然タラシぶりですわ」
「は?……ぁ……」
ジェノビアに突っ込まれたデレクシスは一瞬ムッとしつつも、その指摘に直ぐ気付いた。
ジェノビアに贈るものは全て自分で準備しておきながら、ランスロットに贈るものは人任せ。
しかも、指輪……異性に贈る指輪は愛の証だ。
デレクシスは赤くなった顔を隠す様に片手で口元を塞ぐ。
「うわぁ……君が産まれた時、成人のお祝いは絶対指輪にしようって思ったんだよね……」
ジェノビアが産まれた時、彼女と出逢った瞬間、指輪を贈ると決めていた。
全くの無自覚なのに『愛の証』を贈ると決心していたのだ。
「本当に鈍感ですわね」
これだけ愛を叫んでおきながら無自覚とは……本当に救い難い、とジェノビアは嬉しそうにクスクス笑う。
成人のお祝いのつもりだったのだろうが、これはどう考えても婚約指輪だ。
何だか情けなくて若干拗ねたデレクシスだったが、ジェノビアを愛しているのは事実。
「では、婚約指輪として受け取ってくれるかい?」
デレクシスのお伺いにジェノビアは満面の笑顔で左手を差し出した。
「勿論ですわ。私の王子様♪」
ジェノビアのしなやかな左手薬指に、デレクシスの輝く愛の証がはめられる。
そうして、天然鈍感な軽薄王子と一途なお姫様は、理想郷クラスタで末永く仲良く暮らしましたとさ。
おしまい