私の王子様-11
警備の厳しい城に忍び込むのは簡単ではないが、正面から堂々と入る事はデレクシスにとって難しい事ではない。
しかし、ギルフォードにバレるとジェノビアの元に行く事が難しくなるので、警備兵に賄賂を渡して報告を遅らせてもらうように頼んだ。
高級なお酒という賄賂で、警備兵は快く承諾して1時間だけ猶予をくれる。
ギルフォードに近い兵とかに見つからないようにジェノビアの部屋の近くまで移動したデレクシスは、他の窓から1度外に出て彼女の部屋の天窓を目指した。
きっと、ジェノビアの部屋はギルフォードによって警備が強化されているだろう。
しかし、天窓は普通警備はつけない。
だが、デレクシスは風の精霊人だ。
風を操り、音を消して空中を飛び、そっと天窓からジェノビアの部屋を覗く。
そこには、頭を抱えてうずくまるジェノビアの姿があった。
「!っジェノビア!」
デレクシスは右手に風を凝縮させて、その塊を天窓に叩きつける。
ガシャーン
と、盛大な音が響いた筈だがデレクシスの消音の魔法により周りは静かなままだ。
ジェノビアに降り注ぐであろうガラス片も、デレクシスの操った風で全てふさがれる。
「ジェノビア」
ジェノビアの傍に降り、膝まづいてそっと肩に触れると彼女はビクリと身体を震わせて顔を上げた。
ジェノビアの顔は涙でぐしゃぐしゃで……正直、見るに耐えない状態だった。
「ジェノビア?」
いったいどうしたんだ、とデレクシスは彼女の頬を濡らす涙を指でぬぐう。
ジェノビアはデレクシスを見つめたまま、小さく口を開いてパクパク動かした。
「……ぁ」
消音魔法を使っていたのをすっかり忘れていた。
デレクシスはついっと指を動かして、2人の周りだけ魔法を解除する。
「ごめんよ。消音魔法を使っていたんだ。しかし……こんなに泣くなんて……何かあったのかい?」
ジェノビアはシャックリが止まらないようで、酷く苦労しながらも口を開いた。
「ヒック……おじ様……ッ……お好きな……ヒト……いらっしゃるって……ホント?」
ジェノビアの言葉にデレクシスは苦笑する。
多分、母親のステラが話したのだろう。
別に隠すつもりもなかったデレクシスは、苦笑したまま息を吐いた。