私の王子様-10
「……とか考えると……もう、胃がキリキリする……」
ジェノビアには幸せになってもらいたい。
だから、もしそうなら身を引いた方が良いのでは?
「つかさ。も、手遅れだろ?」
色々と考えているが、今更諦めたりは出来ないだろ?と店主は言った。
「そうなんだよね。だから、ジェノビアに悪いなあと……」
うじうじぐだぐだ言っているデレクシスに、奥さんはつかつかと近寄って持っていたおぼんを頭上に振り下ろした。
ポコン
「!?」
「デレクシス様っ!!」
全然痛くないが、大人しめの奥さんの行動にデレクシスは勿論、店主までもが驚いて目を丸くする。
「だから何ですか!姫様は姫様です!ウィルさんだとしても、やっぱり姫様なんです!デレクシス様はウィルさんと姫様を重ねてらっしゃるんですか?!」
「いや、それはないよっ!ウィルとジェノビアは全然似てないし」
「でしたら、大丈夫です!デレクシス様が姫様を愛してらっしゃるなら、デレクシス様が姫様の運命のお相手になれば良いんですから」
もし他に運命の相手が居るとしても、それ以上に愛してそれ以上に幸せにすれば何も問題は無いのだ。
「……成る程……」
確かにそうかもしれない。
デレクシスの気持ちが少し晴れてきた。
「かもしれない、とか考えたって仕方ねぇさ。とりあえず、さっさとギルフォード様に殺されてこいや」
そんなもしも話は目の前の壁を越えてから考えても遅くない、と店主に言われたデレクシスは、晴れていた気持ちが一気に曇天になる。
「う〜…あ〜…」
渋るデレクシスに店主は容赦なく鉄拳を振り下ろした。
ごつ
「い゛っ」
「ちなみにこれはオレの分な。うちの姫様に手ぇ出しやがって……幸せにしろよ、この軽薄王子が」
涙目のデレクシスに対して店主は晴れやかなニヤニヤ顔。
少なくとも祝福してくれている人が2人は居る、と思えたデレクシスは雲間から一筋の光を見いだした気分になった。