第十五話 陸戦隊VS海兵隊-3
「よし やっと来たか!」
自、の前に陣取っている隊長車がゆっくりと動き出した。隊長車が動き出したということは、陸軍の部隊が到着して、出撃の命令が下ったということだろう。宮中は待ってましたとばかりに椎名に前進を命じた。
「さぁ! 行くぞぉ!!」
戦車は勢いよく斜面を駆け下り、ジャングルを突き進み、一路米軍キャンプを目指す。後ろからは歩兵が、戦車の速度について来ようと全速力で追ってくる。
「椎名! 決して速度を緩めるなよ! 石川! 機銃射撃、いつでもいいな!」
「はい!」
「はい!」
宮中は、エンジン音と走行音に負けないように声を張り上げて、最終確認を行う。部下の二人も負けじと大声で返事をする。
やがて、戦車がジャングルを突き破って海岸戦へ到達したとき、急に空が昼間のように明るく輝いた。
パシュゥゥゥゥゥゥ……。
手持ち花火のような発火音が耳に張り付く。
「照明弾だ!」
宮中は思わずハッチを開けて上を見上げた。
空には四発の照明弾がまばゆく輝き、ゆっくりと落下しながら辺りを照らしている。この照明弾は、海兵隊からの要請を受けて、近くに停泊していた駆逐艦から発射されたものだった。
照明弾の光は、暗闇の中で夜襲を待ち受けていた海兵隊の姿を照らし出した。
「ぐぅ……!」
照らし出された海兵隊の姿を見て、宮中は少し呻いた。その姿は、海兵隊の兵士全員が小銃、機関銃、対戦車砲など種類問わず全ての火器の砲口を、一斉にずらりとこちらに向けていたからだ。
突進する陸戦隊の周囲に、迫撃砲の砲弾がいくつも着弾し、派手に砂が飛び散る。赤い尾を引いた銃弾が車体に当たり、弾かれる瞬間に火花を散らす。左前方を走行していた隊長車が、対戦車砲を正面に食らって擱座した。搭乗員が脱出する間もなく火を吹きあげる。
「石川、撃て! 歩兵を撃ち殺せ!」
すかさず機銃が海兵隊に向けて乱射される。宮中も、主砲の三十七ミリ砲を操作して敵陣に砲弾を撃ち込む。
「踏み潰せぇっ!!」
宮中の叫びとともに、彼の戦車は敵陣の中央に突入することに成功した。
戦車は生身の海兵隊員を踏み潰しながら激走する。後方を走っていた歩兵部隊も敵陣に斬り込みはじめ、敵味方入り乱れる乱戦となった。
各所で爆発音と発砲音、砲撃音が鳴り響き、絶叫と怒声も加わって海岸を音で溢れ返させる。
ドスン!
突然、宮中の戦車に衝撃が走った。砲弾が車両のギリギリに撃ち込まれたのだ。至近弾のために、一瞬だけ動きの鈍ったところへ、さらに二発目が襲い掛かった。
二発目の砲弾は戦車の履帯部分に直撃し、履帯の部品が飛び散る。装甲を突き抜けた砲弾や戦車の破片が、狭い車内を所せましと跳ねまる。宮中の右腕に破片が突き刺さり、顔に生暖かい液体が飛び散った。
「ぐあっ!」
宮中は右腕に走る激痛に呻きながらも、無事な左腕で顔に着いた液体を拭った。血がべっとりと手に着いていた。
「椎名上等兵! 椎名さん! 椎名さん!!」
機銃手の石川一等兵が、しきりに操縦席に突っ伏している椎名上等兵を抱き付くように揺さぶっている。揺さぶられている椎名の身体にはいくつもの金属片が突き刺さり、深紅の血がドクドクと流れ出ていた。
「石川! 降りるぞ! 椎名上等兵はもうダメだ!」
宮中は椎名の身体から石川を引きはがし、腕を抱えて引っ張った。
「椎名さん……ちくしょうっ!」
石川は椎名の形見にと、彼の腰に付けていたホルスターから拳銃を抜き取った。宮中も左手で右腰に付けていた拳銃を引き抜き、軋む右手で安全装置を解除した。
「降りるぞ! 着いて来い!」
宮中はハッチを開き、上半身を乗り出した。そのとき、銃声が一斉に響き渡り、無数の銃弾が宮中に突き刺さった。
上半身が穴だらけとなって宮中は即死した。車両も直後に砲弾を浴び、まだ車内にいた石川もろとも爆発、炎上した。すでに多数の海兵隊員が、彼らが脱出してくる瞬間に狙いを定めており、さらには迎撃のために出撃したM4シャーマン戦車も付近に停車し、車両にとどめを刺したのであった。
日本軍の夜襲は、海上からの支援と絶大な火力を持つ米軍の前に失敗し、参加した海軍陸戦隊と陸軍二個大隊が壊滅する大損害を日本軍は被ってしまった。