異空間の旅・雷の国-2
「・・・この声は・・・」
貫禄を備えたような重みのある声にアレスとカイは身を固くし、構えるように体勢を低くした。するとブラストが小さく笑い彼らをたしなめる。
「お前ら安心していいぞ!エデン様は危険なお方じゃないからなっ!!」
二人の肩に勢いよく手をのせると、ほっとしたのか彼らの体から力が抜けていく。そして安堵する一同の元に大きな気配が近づいてきた。
やがて雷の国の門から堂々たるその姿を現したのは・・・
「久しぶりだなブラスト」
長身のキュリオよりもさらに大きく、美しく磨き上げられた白銀の鎧の下には見事に鍛え上げられたバランスのよい筋肉が隆起しているのが遠目からでもわかる。異空間はとても暗いが、彼の姿がよく見えるのは内側から放たれている彼自身のオーラだということがわかった。
(なんだこの感じ・・・見えない風に体が押されてるみてぇだ・・・!!)
油断すれば仰け反ってしまいそうな体をやっとの事で踏ん張り、耐えていることを悟られないようにするのが精いっぱいなカイだった。
「・・・これがっ、雷の王・・・」
ぼそりと呟いた小さな剣士は彼の気迫の圧倒されながらも、先程感じたマダラの時とは違う別の強さのようなものを肌で感じている。
そして声をかけられたブラストは、懐かしそうな笑みを浮かべ彼の前で深く一礼する。
「お久しぶりでございます!エデン王っ!!」
「あぁ」
彼が鮮やかな青い布地に銀色の刺繍の施された大きなマントを翻すと、彼の大きな手が伸びて顔をあげたブラストとしっかり握手
を交わしている。
(・・・ブラスト教官はエデン王とお知り合いなのだろうか?)
その二人の親し気な様子をみたアレス安心し、ここぞとばかりに雷の王の顔を覗き見た。今まで他の王と会う機会がなく、見れたとしても先程の冥界の王のように心を許してくれているわけではないからだ。
(この方が<革命の王>エデン様・・・)
彼は二十代後半ほどの見目を保っており、精悍な堀の深い顔立ちは彫刻を思わせる大人の男の美貌を誇っていた。そして髪は力強い稲妻を連想させる癖のある短髪で・・・やや濃いめの橙色をしている。
そして、まじまじと見つめてくる小さな瞳に気が付いたエデンは視線をアレスとカイへと向け・・・
「ん?なんだチビども。俺の顔になんかついてるか?」
稲妻の地鳴りのような低い声で問われ、アレスとカイは慌てて姿勢を正す。
(しまった・・・っ!あまりにも不躾な・・・)
アレスはとっさに別の事を考えた。言い逃れをするわけではないが、これは他国と違って彼の別名が二つあることが気になっていたからだ。
「エデン王!ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか!!」
緊張のため声が上ずりながらもアレスは思い切って質問してみることにした。王と会話が出来ることなど滅多にない。その興奮が後押ししているのか、いつになく積極的な彼だ。
「なんだ?」
腕組みをした雷の王は了承し、アレスの言葉に耳を傾けている。
「ありがとうございます!
<革命の王>と<雷帝>と呼び名が二つあられるのは何故でしょうか・・・」
勢いに任せて言葉を発したアレスの語尾がだんだん弱くなっていった。それもそのはず、先程まで親し気に笑みを浮かべていたエデン王の顔が一瞬険しくなったからだった。
「・・・アレス、その質問は・・・」
慌てた様子のブラストがアレスを振り返り、前方のエデンの様子をうかがっているように見えた。
「いや・・・いい、隠すことでもないからな」
一度目を閉じたエデン王の瞳が開かれると、力強い琥珀色の瞳が悲し気に揺れていた。
「<雷帝>っていう呼び名は俺の・・・いや、俺達の永遠の恋人がそう呼んでいるんだ」
「恋人・・・?」
王が特別な異性をつくらないのが当たり前だと思っていたアレスたちは、少なからず大きな衝撃を受けた。そして彼の言い方も気になる。
(俺達の・・・って、他の王たちにとってもそうなのだろうか・・・?それとも雷の国の民にとっての・・・?)
先を聞きたいのは山々だが、痛い程のブラスト教官の厳しい眼差しを感じる。
「教官・・・」
「・・・アレス、もうこの話はするな」
小さく頷いたアレスはエデンにお礼を言い頭を下げ、後ろに下がる。偉大な雷の王は機嫌を損ねたわけではないが、それから彼の瞳が晴れることはなく・・・何かがあった事だけはわかった。しかもそれがエデン王にとってとても重大なことであると・・・。
「俺はこれから行くところがある。用事があって来たんだろう?」
「そうです、エデン様へキュリオ様から書簡を預かっております」
エデン王の声に慌ててブラストがキュリオからの書簡を取り出した。