ルリア語り(4)-1
四つん這いは、彼が比較的最近に提出した計画書にすでにあったことなのだが、ジャニスのときには準備が整っておらず、今回のミドリ調教からの導入となったメニューだった。
準備というのは――調教対象が歩くのは、床の上ではなく、大きな台の上でだというのだ。これの製作に時間がかかっていた。調教士のイメージも曖昧で、ジャニス調教の直前辺りまで何度か彼と問答を繰り返し、わたしがそれを工房に伝え‥‥そして出来上がってきた目の前の台は、大きな細長いテーブルのような形をしていた。いちおう食卓等にも転用できるようにしており、電動式で高さを大きく変えられるようになっている。
「床でそれをやらせればいいじゃないか」
製作過程で煮詰まったとき、わたしはそう言った。
しかし調教士が言うには、これが必要なのは、床を四つん這いで歩かせると、乳房が揺れるのがうまく観賞できない、ということだった。
(観賞‥‥。つまり、見るだけか‥‥)
台は完成しても、順番はジャニスのときと同じ――つまり、乳房に縄をかけ、形を歪ませて絞り上げるあれをやるものだとなんとなく思っていたわたしは、さきほど今日のメニューを聞いて、正直少々拍子抜けしていた。
(観賞にしても、もっと荒々しいものを――)
わたしは、己の内に、欲求不満を感じていた。
(ただ歩かせるだけなら、昨日のわたしのミドリへの責めのほうがよっぽど――)
「ルリアさま、どうしたのですか、ぼうっとされて」
昨夜の熱いシャワールームを思い起こしていたわたしは、ジャニスの声にハッとわれに返った。
い、いかん。
いまは、妄想に耽るときではなく、目の前の出来事をみることだ‥‥!
わたしが頭を左右に振っていると、インカムをつけたジャニスが調教開始を告げた。
「始まりますよ。今日の仕事が」
ジャニス・プラスケットは普段通りのメイド服だ。さっき一度、調教士はジャニスにもパンティ一枚の姿での操作を命じたのだが、気が変わったらしく取り止めたのだ。
(
わたしの疑問をよそに、追尾カメラがキコキコと動き出す。ドリーがほぼ全裸の姿で台に乗った。わたしも気をひきしめた。四つん這いにして歩き出すと、ドリー・オリョーフの形のよい乳房が両腕の間でふるふると揺れた。
(あれは、なかなか固い――あの揉んだときの弾力――‥‥いやいやいやいや、そんなことじゃないだろう、ルリア・ミアヘレナ‥‥!)
なるほど、乳房を揺らしながら、動物のようにハイハイする姿は、なかなか刺激的で、みだらだった。溶液で敏感になった双乳が、腕と、またお互いに擦れているのであろう。
「はうう‥‥。はう‥‥!」
直接揉むときほどではないが、ドリー・オリョーフは嬌声をあげる。ピクンと体を揺らし、そしてまた乳房が揺れ、また、
「ふうううん‥‥」
と甘い鳴き声をあげるのだ。
調教士が言うには、裸にしてただ激しく責めてばかりいれは、羞恥心が減衰してしまう、とのことだった。
羞恥心。
そうだ。コンジャンクションという勝負では、参加者の羞恥心も、重要な評価ポイントになる。
いまドリーは、上も下も、着けさせてはもらっていない。彼女の身を覆うものは、膝頭から脛の上部を守り膝を痛めないために付けている、やはり工廠製の特別な専用サンダルのみだ。乳房だけでなく、尻も、その間のいやらしいスポットを大きく曝け出したまま前進しなくてはならないのだ。
ジャニス操作の追尾カメラは、キコキコと動き、そこを丹念に追う。ドリーも、そのことはよく承知している。真っ赤な顔を屈辱のためか歪ませながら、健気に前進を続けた。
昨夜、わたしも、姿見の己の裸体を映した後、パンティも脱ぎ、四つん這いになってみていた。姿身の高さの関係で鏡面で見ることはできなくなった。が、なるほど、普段と違う、心もとない気持ちになってくる。そのときは自分ひとりだったが、あの調教士や他の人間の目があれば、なるほど、屈辱的な気分が増して、よりみだらに官能が目覚めるのかもしれない――パンティも脱いだのは、
(胸どころか秘所までも追尾カメラに晒し、その映像が放映される――)
そう想像すると、たしかに何かみだらな気分が、体の内奥から満ちてくるようであった。
調教士は、ドリーの四つん這いプレイを終わらせた。そして、装置のチェックをした後、
ドリー・オリョーフは頭を振り、涙まで見せて抗ったが、わたしは応じたかった。いずれ、わたしの体にも塗られるものなのだ。おそらく、調教士はそのとき、彼女たちにも同じことを命じるだろう。その気持ちを体験しておく必要があった。しかし、ドリーのその頑なな嫌がり方に、わたしが彼女に強く命じる前に、調教士のほうが折れた。わたしは思った。
(優しい男だ‥‥)
結局、
ドリーはというと、調教士やジャニスの極薄手袋の手が肌の上――盛り上がった乳房や、腋や、みぞおち、下腹部――を行き来する度に、
「くふん‥‥くふうぅん」
と、女のわたしさえ感じるような、胸が疼くような――いや、胸ではなく――‥‥。と、とにかく、どぎまぎするような声で鳴いていた。
「ドリー、頑張るんだぞ」
わたしは思わず、励ましの声をかけていた。ドリーの身体が、ビクンと揺れた。