シロ-1
なんにも見えない。
この世界は真っ暗だ。
『何やってんの?早く入れよ』
彼があたしを見下ろして笑う。そんな簡単に言われても、こっちには勇気ってやつが必要なのに。
5分くらぃかかってやっと入れた。
『お邪魔しまーす…』
結構見た目によらず綺麗にされている部屋。明るい光が外から降り注いで。綺麗。
『ねぇ、1人で住んでるの?』
こんな小さなアパートで、部屋には女の気配はない。だから敢えて聞いた。
『1人じゃねーよ』
部屋の奥から彼の声が響く。声の調子から言ってとても嬉しそうだ。
『ほら、こいつと』
『あ!可愛いー!』
彼が連れてきたのはまだ1ヶ月経つか経たないかの小さな白い猫。首輪に付いた鈴が鳴る。
『シロってゆーんだヶド、こいつ。アパートの隣の公園で捨てられてたんだよ。俺の事見て鳴くの。可哀想で来るか?って聞いたら付いて来たんだよ。なーシロ』
彼は笑ってシロにキスをした。
(あ、この笑顔好き)
『ちょっと!いーたーいーッ』
シロがあたしの膝の上で丸くなって眠っている。
『ちょっとくらい我慢出来ねぇの?』
彼はマジで怒ってる様だ。あたしの膝こぞうにガーゼを乗せ、その上から包帯を巻く。
『よし!出来た』
彼が満足げな顔を見せる。
『…ありがと』
『しかし、お前よく転ぶのな。足とか古い傷だらけ』
彼が笑ってあたしの頭を撫でた。正直、戸惑う。素直じゃないあたしは、今までありがとうなんか言えなかったし、ここまで親切にしてくれる人なんかいなかった。