〈狂宴・後編〉-32
優愛を助けたい……その一つの事だけに心は占有され、親友を事件に巻き込んでしまった己の罪深さすら、頭の片隅にも置いてなかったのだ……。
『優愛もそうですよ。奈和の写メを見せて「私より可愛いでしょ?住所もメアドも教えるから、お姉さんと私を帰して」って、俺に泣き付いたんですよぉ?』
『えぇ〜?自分達の為に彼女まで売ったのぉ?この姉妹って、心底“腐ってる”のねぇ』
タムルの表情は禍々しく歪み、その口元に湛えた笑みは氷のように冷たい……専務の言葉をそのままに受け取り、喜多川姉妹の人格を、徹底的に否定しようという思いが露わになっていた……。
『……自分のコトを棚に上げて……よくもまあ、春奈ちゃんに“あんな台詞”を言えたモンねえ?……ねえ?ねえってば!』
「ん"あ"ッ!?ぎ…ひいぃ!!」
床に大の字にされて寝転んでいる景子を見下ろしていたタムルは、一切の弁明も許されない景子の顔を踏みつけた。
泣き顔は無惨にもひしゃげ、今更のように静香に詫びる涙を流すも、その雫に何の価値があるのか……ただ薄汚れた床を濡らすだけの、眼球から溢れた液体に過ぎない……。
『しかもあの便器は結婚間近だったんですよぉ?他人の幸せを奪っておいて、あの態度ですからねぇ……こんな奴、甘やかす必要なんて無いですよぉ』
『……フ…フフ……そうね……貴方の言う通りだわ……』
グニャリと曲がった顔から足を離さないまま、タムルは見下した瞳で景子と優愛を交互に見ている。
虐める事で性欲を満たしたいというタムルの、その捻曲がった欲望が、専務の言葉によって更に膨れてしまったようだ。
『あの下膨れの豚……庭の樹に吊るされてマワされてたわよぉ?裏切り者の貴女の所為で、いったい何発〈中〉に出されたのかしらねぇ?』
「むぶ…ッ…うぎぃ…!!」
グリグリと顔面を踏み躙り、春奈にしたように景子を責めていく。
正義を鼻先にブラ下げていた女刑事の、張りぼての偽善を暴いたとタムルは勝ち誇っている。
それが的外れな冤罪を含むものだとしても、御主人様の意見は絶対なのだから、何の問題も無いのだ。
『そう言えば、ジャングルで頑張ってる部下の方々に、そろそろ新鮮な〈肉〉を与えても宜しくないですか?』
「ッ!!!」
薄ら笑いで話す専務の言葉に、景子は戦慄を覚え、そして、春奈の心にも同様に震えが起きた……。