ルリア語り(1)-1
わたしは服を脱ぎ、拘束ブラを外し、そしてパンティも脱ぎ、部屋の姿見の前に立った。
高い上背の、豊かな胸の女のほぼ全身が、彫刻が施された長円形の鏡面に映っていた。歴史時代の、ペリンツィア地方の様式の彫刻だ。
わたしがそっと自分の胸に手を伸ばすと、鏡内の女も同様に、大きく盛り上がった彼女のOカップの乳房に手を伸ばした。
「ン‥‥」
乳首に触れると、軽い刺激があった。そのまま指でくりくりと転がした。
「ンンン‥‥! ――ん?」
快感に身をゆだねていたわたしは、そのときふと、ごく小さな地震を感じた。もうすっかり慣れた、この
わたしの名は、ルリア。ルリア・ミアヘレナ。
オイオ星の出身ではなく、同じく母星をめぐる衛星トゥーロパの出身だ。
この
しかし、わたしの場合は、普通の意味での「移住」とは、事情が少し異なっていた。
わたしは長い間、戦場にいた。そして戦に破れ、このオイオに逃げてきたのだ‥‥。
そして、ドリー、ジャニスと出会った。
ドリー。ドリー・オリョーフ。
こんなわたしを、何故か慕ってくれる少女。
先刻‥‥。
「ドリー、大丈夫か」
一日の
「はい‥‥。大丈夫です。務めですから」
ドリーは健気にもそう答え、わたしは笑顔さえ見せた。
「わたしの部屋のシャワーを使え」
わたしは言った。誓って言うが、そのときは、純粋に彼女のためにそうしてあげたいという気持ちだけで、邪念はなかった。
「え‥‥」
ドリーのクラスでは、王宮内に個室は与えられていない。寝室は四人部屋、浴室はもっと多人数の共同浴室だ。これに対して、高級軍人であるわたしには、それほど広くも豪華でもないが、浴室付きの個室が与えられている。
当たり前というなかれ、わたしはあくまで軍属であって、王宮の人間ではない。いまは事実上、政府の仕事にも携る立場だが、これは、人材難ゆえの臨時の仕事だ。
わたしはドリーに、Fカードを手渡した。
「い、いいんですか」
ドリーの顔が、ぱっと輝いた。わたしは、ゆっくりと頷いた。完全に禁止されているわけでなく、罰則はないが、Fカードの貸与は、現在の体制下においてあまり推奨されていない行為だ。そういう規定があった。
というのは、この手の行為を認めてしまうと、規律が緩むからだ。わたしも、その規定を含む王宮心得の案出に関わった――というより、積極的に推進した立場なのだが。しかし――。
部屋を退出し、背後でドアがシャッと閉まる音を聞いたとき、わたしの心に魔が囁いた‥‥邪念が起こったのだった。
(これは――チャンスだっ‥‥)
わたしは、しばし逡巡した。そして、意を決すると、手をリーダーにかざし、いま出てきたドアをスライドさせたのだった。部屋に入り、後ろ手でドアを閉ざし奥へ入ると、素早く衣服を脱ぎ捨てた。自分でも驚く程の速さだった。
「え‥‥あ‥‥、ル、ルリアさま‥‥?」
浴室の前に立つと、ザアアアアっというシャワーの音にまじり、慌てるドリーの声がした。小さな
戦場からこのオイオに逃れ来てしばらく、わたしはこの
「小屋」と呼ぶにふさわしい、生存がやっとのそのスペースで、
修験のような、といっても、研究所の所員が使っていたらしいネット環境は利用していた。その場所は気密面で不安があり、宇宙服や空間服の類を身につけねば行けなかったが、外界とまったく断絶していたわけではないのだ。だから、最近そんな根性のある者がいるかはわからないが、修行の尼僧は大げさ、かつ不遜かもしれない――とにかくそこで、わたしは歴史を調べるうち、コンジャンクションに興味を持った。歴史時代の競技として、以前から単語としては知ってはいたが、深い関心を抱いたのは、その隠遁生活の時期だ。
選ばれた女たちのみだらさで競う「競技」。儀式的な側面もあったと知ったが、わたしを引きつけたのは、それによって国々の争いを武力に頼ることなく解決し、平和を保っていた、という事実だった。
その頃のわたしは、過去の歴史を調べることに凝っていた。それは、当時の自分が、未来に展望を失い、生きる希望を失っていたためだった。