光の風 〈黒竜篇〉-9
「オフカルス第一皇子・カルサでもあるがね!」
カルサは勢い良く剣を振り下ろした。剣圧が光にかわり、フェスラを襲う。
フェスラは光を飛び上がってかわす。その瞬間、鈍い衝撃がフェスラを駆け抜ける。
フェスラの視界にはカルサしかいなかった。金色の瞳が妖しく光る。
「何千年、何万年も亜空間に閉じ込められたら…ここまで力も弱まるか?」
「くっ…!」
カルサはフェスラを刺したまま屋根に叩きつけた。鈍い音とフェスラの悲鳴が夜空に響く。腹部に剣が刺さったまま押し倒された状態になってしまったフェスラは身動きが取れなかった。
「悪いな、フェスラ。」
苦しむフェスラの体に紋章が浮かび上がってくる。それは心を闇に奪われてしまった、邪竜の印だった。
「なぜっ…私を殺す!?貴様は玲蘭華(りょうらんか)のさしがねか!?」
「…ある意味そうかもしれないな…。」
カルサの言葉を聞いた瞬間、フェスラはカルサの首に爪をたてた。強くくいこみ血が流れだす。
強い衝撃にカルサの表情が歪んだ。
「皇子!」
「…ただで殺られると思うな…っ!万年の恨み、そこまで浅くはない!!」
赤い瞳に憎しみと怒りがこもる。フェスラの手に力が入った、カルサの首は締まり切り落とされそうだ。
「ぐっ…。」
カルサの意識が落ちそうになった瞬間、フェスラの動きが止まる。
そして、千羅が急いでフェスラの手をカルサの首から離した。
拘束から解き放たれたカルサはよろけて千羅の方に倒れこんだ。千羅はしっかりと支える。
「皇子!」
「千羅…すまない。」
ゆらぐ視界の中で映ったのは、首をはねられた黒の竜王・フェスラ。その深紅の瞳は開いたままだった。
「フェスラ…。」
「…何故だ…私が何をしたというのだ…。」
フェスラの呟くような訴えにカルサと千羅は動けなかった。何も言えない。
「…私が闇の力を持つが故にか…?」
漆黒の髪が風に揺れる。ただ彼は亜空間から出てきただけの事、そして命を奪われた。かつての皇子、カルサの手によって。
「許さんぞ…この恨みは命尽きようとも生き続ける…。玲蘭華も、貴様らも、もがき…苦しみ…死ぬがいい。」
そう言い残し、フェスラは息絶えた。彼の体は漆黒に染まり、煙のように消えてしまった。