光の風 〈黒竜篇〉-6
《…どこだ…?》
どこからか低い男の声が聞こえる。リュナは顔を上げ、声の主を探す。
前は恐怖の対象でも今となってはその声にすがる想いだった。
「誰…?私を探しているの?」
《どこだ…?》
「ここよ!私はここにいる、あなたは誰なの?」
まるですがるように叫んだ。リュナの声がこだまする。何の反応も返ってこない不安が、より恐怖心が生んだ。
「…誰なの…っ」
あまりに押し寄せてくる孤独に涙がでそうになる。確かに今自分の声に応じたように感じたのは気のせいだったのか?
《どこだ?》
「!?」
急に声が近づいてきた。今までのような距離感はなく、真っすぐこっちに向かってきているのが分かる。リュナにさらなる恐怖が芽生えた。
《どこだ?どこだ?》
段々と近づいてくる声。どこから来るかは分からないが確実に近づいてくる。逃げる場所は、ない。
「カルサ…ッ…カルサ!カルサ!」
祈りを込めてその名を叫んだ。声から逃げるように、暗闇から抜け出すように助けを呼んだ。
暗闇の中で深紅の瞳をもつ「何か」が動いている。ゆっくりと何ひとつ見逃さないように辺りを見回す。
ふと、小さな、かすかな光が目に飛び込み動きが止まる。身体ごとその光の方にむけ、目を凝らした。
じりじりと近付きながら目を凝らす。ただの光じゃない、あれは何だと自分に問う。
目を凝らした先に見えたものは、リュナだった。
《見つけた…》
深紅の瞳をもつ「何か」はものすごいスピードでリュナに向かっていった。
必死にカルサの名を叫び逃げようとするリュナに近づいていく。
リュナにはまだ気付く事ができなかった。ものすごい速さで「それ」は近づいてくる。
やがて風を感じ、振り向いた瞬間。
「きゃああああっ!」
リュナの叫び声が静まり返った城内に響く。カルサの腕の中でリュナはたちまち真っ黒に染まった。
「リュナ…リュナ、しっかりしろ!目を覚ませ!リュナ!」
形以外なにも分からない位漆黒に染まったと思ったら、まるで煙のようにリュナの身体から剥がれていく。
「なんだ…?」
黒く剥がれた煙はやがて形どっていった。カルサは黙ってそれを見ている。リュナは眠ったまま意識を取り戻さない。煙が剥がれたリュナは見た目には戻っていた。