光の風 〈黒竜篇〉-5
水神と地神は祈ることでは何もならないと分かっていても、祈らずにはいられなかった。
やがて夜がやってくる。
その日の夜は張り詰めた空気の中で迎えた。カルサは眠る事無く窓の外を眺めている。月明かりが綺麗な夜だった。
意を決して、寝室をあとにする。向かう先はリュナの部屋だった。その表情は穏やかなものではない。
部屋の前につき、番をさせていた女官をさげさせた。変わった様子はないという報告を受け、さらに緊張が高まる。
軽くノックをしたあと、返事を待たずに部屋の中にカルサは入っていった。綺麗に装飾された部屋の、奥の窓側にベッドが位置してあった。
静かに寝息をたててリュナは眠っている。ベッドの傍に寄り、静かに腰掛けた。切なそうにリュナを見る。片手でそっと頬に触れても目覚めない。
「まだ、来てはいないな…。」
窓の外に目をやる。まぶしいくらいの月明かりがかえって不気味なくらいだった。
「うっ…。」
かすかだが突然のリュナのうなり声に慌てて意識をリュナに向けた。見た感じ何も変わったところはない。
(気のせいか?)
そう思った瞬間だった。嫌な気配が部屋中に広がり、心なしか薄暗く染まった。とっさに構える。
(なんだ?何がくる?)
何かが起こっている、その原因は分からないが出所は明らかだった。
「リュナの夢かっ」
カルサはすぐにリュナの手を握り声をかける。
「リュナ。起きろ、リュナ!」
大きな声で叫んでも体を揺らしても、頬をたたいてもリュナは何の反応も見せなかった。カルサに焦りがでてくる。
「くそっ!リュナ、起きろ!目を覚ませ!」
リュナ!
「カルサ?」
暗闇の中でリュナは呼ばれた気がして振り返った。たが周りに広がるのは暗闇だけ、リュナは再び暗闇の中に戻ってきたことを認識した。相変わらずかすかな光は自分だけ。
「また…来てしまったの?」
何の音もしない、狭いか広いかも分からない場所でリュナは立ち尽くす。
「ねぇ、誰かいないの?」
返事はない。一応辺りを見回しては見るが、見えるものは同じだった。次第に暗闇の恐怖がリュナに芽生えてくる。
恐怖と孤独からくる寒さで思わずうずくまってしまった。