光の風 〈黒竜篇〉-4
カルサより少し若い青年は全身全霊をかけて、守ろうとしていた。
「どんな時でも必ずオレたちがフォローする、だからお前は安心して国王陛下をやってろ。」
「ありがとう、千羅。」
「千羅の言う通りさ。」
透き通るような女の声が響いた。いつのまにか二人の前に立つ女性がいる。長い髪をひとつにまとめ、印象のある瞳で二人を見ていた。
「瑛琳…。」
瑛琳と呼ばれた女性は、ほほ笑みカルサのおでこをたたいた。
「弱きになるんじゃないよ!何の為に私らがいるのさ?もっと頼りにしてくれてもいいんじゃないのかい?」
「おう、瑛琳もっと言ってやれ!」
この二人、地神・千羅と水神・瑛琳は共に五大元素の力を持ち、古くから雷神・カルサのお庭番として仕えていた。
三人とも年はそんなには変わらない。カルサが若くしてこの国を背負ったように、彼らも若くしてこの任をおった。
古くからの付き合いである二人に、カルサは誰よりも信頼をよせていた。二人の会話を聞いていて、自然と笑みがこぼれる。
「瑛琳…だんだん口調が年とっていくな。」
「ぶはっ!言っちゃった?カルサ言っちゃった!?」
その瞬間、瑛琳の手によって二人の前に星がとんだ。ゴン、という鈍い音の二連発と共に。
「少なくとも、あたしはあんたらよりも年上だよ。もっと敬いな!」
「いてぇ。」
カルサと別れ、瑛琳(えいりん)、千羅(せんら)の二人は城の見える小高い丘にいた。
さっきまで居た城は遠く別世界のように見える。
「あんた、いつまで皇子と呼ぶつもりなんだい?」
「なんで?」
「あたしには分かってんだよ?あんたが考えていることくらい…。」
「いいじゃん、オレが皇子って呼べば嫌でもあいつは自分の立場を思い出す。そのかわり、オレがいない時はそれが少しでもなくなるかもしれないだろ?」
「千羅…。」
「少しでも忘れていられる状況を作ってやらなきゃ。普段のあいつはこの国の国王陛下なんだ。あんな国の皇子なんかじゃない。」
「あたしたちには前世でも、あの子にとっては現世なんだね。」
瑛琳がそう呟いたあと、しばらく二人は何も話さずに城を見ていた。あの中に自分達が守りたいものがある。
「…絶対に死なせない。」
風に消えそうな声はどちらが放ったのだろう。それでも二人の気持ちは同じだった。
ただカルサの幸せを。