光の風 〈黒竜篇〉-3
軍服を身にまとい、当然のようにカルサの横に座り込む。
「精霊ね…そんなものが暗闇から迫るようにやってきますか?」
「あいつの不安が取りのぞければ何でもいい。十中八九いい兆しではないだろうからな。何か動きはあったか?」
カルサから表情が消え、瞳が冷たく光る。視線の先はリュナが走り去った方向から動かず、千羅を見ようともしない。
「いえ、動きは何も。今のところは…ですが。」
「そうか…。動いているのかまだ目覚めていないのか…近々動きがでるのは間違いないはずだ。」
「瑛琳(えいりん)が国内の様子をずっと見張ってます。」
千羅はこちらを見ないカルサを見ながら話を続ける。思うところがあるのだろう、カルサは相づちをうってから少し黙ってしまった。
「千羅、お前気付いているか?」
「はい…徐々にこの国に力が集まりつつあります。」
「五大元素の力、火の力以外すべてこの国にそろっている。光はオレ、風はリュナ、地は千羅、水は瑛琳。」
「私と瑛琳は皇子のお庭番、古くからこの地を基準に活動しておりますが、他の戦力も集まりつつあります。」
千羅の話をカルサはただ黙ってきいていた。遠い目をしている。こういう時カルサがいったい何を考えているか、千羅は知っていた。
知っているからこそ何も言えない。言える言葉があるとすれば一つだけだった。
「皇子…時期早々に動いてはいけません。」
「…そう、だな。」
「見つけられたのでしょう?運命に背きたいものを…背く為のものを。」
この時初めてカルサは千羅を見た。何とも言えない複雑な表情で笑う。
いつもの威厳に満ちた姿はそこにはなかった。はかなげで、年相応の青年に戻ったみたいだった。いや、もっと小さいかもしれない。
「ばか、なんて顔してんだよ。」
今までとは口調も違い、呆れたように呟きながらカルサの肩を組んだ。カルサはされるがままに体を預ける。
「他の方法を見つけるまでオレたちは諦めない、そう言っただろう?」
何も言わずにカルサは千羅の言葉に耳を傾ける。このような弱気なカルサは今までにないものだった。
「オレも瑛琳も皇子のお前じゃなく、カルサ・トルナスの為に動いてるんだ。絶対見つけてみせる、やっとお前が運命にあがらい始めたんだ…絶対見つけてみせる!」
千羅の言葉が強く響く。信念をもった声、強い意志。譲らない、譲れない想いがそこにはある。
誰がなんと言おうと、例え当人が拒もうとも変わらない。