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新【翼の記憶】
【ファンタジー 恋愛小説】

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異空間の旅・死の国-1

吸血鬼の国の門から遠ざかった一行の背後をヴァンパイアの王が通り過ぎたことを彼らは知らなかった。もし出くわしてひと悶着あったとしても、使者の彼らではヴァンパイアの王には歯が立たないだろう。

「なぁ、さっきの吸血鬼の国の王様の神具ってやつは何なんだ?」

カイが呑気にブラストを見上げると、ブラストは感心するように大きく頷いた。

「いい事だなカイ!お前もやっと学ぶ気になったかっ!!剣士だからといって体だけを鍛えていれば良いというわけではないんだぞ!!」

先頭のアレスは背後から聞こえてくる彼らの声に小さく笑っていたが、先程みた夜の風景に内心焦りを抱いていた。日が暮れる前に悠久に戻る予定だったため、大幅に遅れたと思っているのだ。

「彼の神具は爪だっ!!いっとくがな、ただの爪じゃないんだぞ?」

「毒でも仕込んであるとかか?」

カイにしてはいいところを突いたな、とブラストは思ったが・・・

「なんだそのアサシンのような細工は!違うぞ!!」

するとテトラが歩調を緩めてカイの隣に並んだ。

「もう少し厄介なものさ。そしてヴァンパイアらしいものだよ」

与えられたヒントの中でカイは腕組みをしながら、うーん・・・と唸った。

「血を吸うとかそんなところしか思い浮かばないけどなぁ・・・」

するとニカッと笑ったブラストが、ぐっと親指を突き立てる。

「さすがは俺の生徒だっ!!ヴァンパイアの王の神具の爪には血と人のエネルギーで強化される厄介な能力を持っているんだぞ!くれぐれも気を付けろ!!」

「げっ!!なんか生き物みてぇなやつだなそりゃ・・・」

カイはおぞましいものを想像し、身震いしている。しかし、それがまた・・・それぞれに与えられた特別な武器であることから、半ば少し羨ましくもあった。

「俺には何かないのかな、そういう特別なやつ・・・」

カイは小さな両手を見つめ、ぎゅっと手のひらを握りしめた。

話に区切りがついたと思ったアレスは彼らを振り返り声をかける。

「教官、ずいぶん予定が遅れてしまっているようです。少し急ぎますがよろしいでしょうか?」

「ん?」

カイから視線を戻し、ブラストはアレスの言葉に首を傾げている。

「遅れてなんかいないぞ?どうしてそう思う」

「え?いえ・・・吸血鬼の国を訪れた際、すでに夜だったものですから・・・」


なるほど、とテトラたちと顔を見合わせるブラスト。

「あの国には昼がないんだ。永遠の夜の国と言えばいいのか?」

「そう・・・なんですか?」

「へぇ・・・」

(いいな、こいつらの反応!まったく教え甲斐があるってもんだぜ!!)

ブラストは教官魂をくすぐられ、つい胸を張ってこたえてしまう。

「異空間から見れば規則正しく門が並んでるように見えるだろ?でもな、上も下のないような空間だからこそ・・・門をくぐればまったく別の場所にでるってもんだ!!さっきの国の月はすごいでかかっただろ!!」

「そこまで見てねぇよ!もっと早く言えよな!!」

(知らないことばかりだ・・・)

アレスは注意深く観察していたつもりだったが、そこまで見ている余裕などなかった。単純なカイはもっと見ていなかったのは言うまでもない。

「だから時間のことは心配しなくていいぞ!ちゃんと予定通り進んでるからな!」

「わかりました。では歩調を変えず次の門へ向かいます」

ほっとため息をついたアレスは次の門へと足を向けた。

(次はあそこか・・・)

少し遠くにあるその門には、灰色の靄(もや)がかかっており・・・ここからではよく見ることができない。と、いままでとは違うその門の風貌にガーラントの言葉を思い出す。

"死の国に立ち入ってはならぬ・・・冥王とは顔を合せてはならん"

そう言った時のガーラントの顔を思い出し、ゾクリと嫌な汗が背中を伝う。(先生はそのことをすごく気にしておられたんだった・・・)

クリアしたふたつの門でさえ多少危うい場面があった。しかし・・・"死の国と冥王"と具体的に忠告を受けるというのは一体どういうことだろう。とアレスは思考を巡らせている。

「教官、次はおそらく死の国の門です。先生に気を付けろと言われていたのですが、冥王マダラ様とは一体どのような方なのですか?」

「・・・ガーラント殿は他に何か言っていたか?」

カイとじゃれあっていたブラストが急に真剣な顔になり、声がわずかに低くなる。

「死の国立ち入るな、冥王と顔を合せるな。と・・・」

「そうか・・・」

含みのあるブラストの言葉に、カイがしびれを切らしたように声をあげた。



「だーかーらーっ!そうやって一人で納得してねぇで教えろって!!」





「冥王が傍にいると思ったらすぐに門から離れろ。魂を狩られるぞ」




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