よみがえりの木-8
あの男が手を出したのは、美奈だけじゃない。
そっくり同じことを言って、メイにも近付いてきた。
そして、メイも美奈と同じく本気になった。
『あいつと結婚なんて、やめたい』
『メイと、ずっと一緒にいたいんだ』
週末には、わざわざ県外にいるメイのところまで訪ねてきてくれた。
蘭に、悪いと思った。
でも、理屈じゃなかった。
止められない気持ち。
好きで、好きで。
だから、彼の欲しがるものは、なんでもプレゼントした。
ブランド物のサイフも、高価なスーツも、車でさえも。
OLの微々たる給料は、あっというまに消えた。
足りない分は、体を売って稼いだ。
嫌だったことなんて、ひとつもない。
夢中で、楽しかった。
少しでも、彼に満足して欲しくて。
なのに。
蘭との式の日が迫ってくるのに、ちっとも婚約解消しようとするそぶりがない。
ある週末、メイのところを訪れた彼を問い詰めると、鼻で笑われた。
『悪いけど、体を売るような女とは結婚できないな』
『蘭は、頭は弱いけど、あの体は悪くない。それに、親の権力もすごいからな。結婚を止めるなんて、できるわけないさ』
『面倒なことを言うなら、これでサヨナラだ』
ごみくずでも捨てるような言い方だった。
「そんなの、許さない、あなたは、わたしと結婚するの」
脅すつもりで振りあげた包丁が、彼の首をかすめた。
ひゅうっ、と空気の抜けるような音がして、景色が赤に染まり、彼が声も出せないまま倒れていく。
そこからは、ほとんど無意識に、体だけが動いた。
動かなくなった彼をバスルームに引き摺っていって、汚れたフローリングを丁寧に拭いて、それから。
肉を削ぐのが、あんなに大変だとは思わなかった。
骨は、それだけでもけっこうな重量がある。
血を綺麗に洗い流した後、ほとんど空っぽだった冷蔵庫と冷凍庫に、ぎっしりと詰め込んだ。
あとは、食材に紛れさせて、少しずつ食べた。
川魚と鶏肉の間のような味がした。
あれから三年。
いまも、冷凍庫には彼の一部が残っている。