よみがえりの木-5
「い、いやっ」
美奈の手から、ケーキ皿とフォークが落ちて派手な音を立てた。
それと同時に、蘭がハッと顔を上げる。
焦点の戻った目で、哀しげに割れた皿を拾う。
「ごめん、わたし、また変なこと言ったのね。ケーキ、まだあるから、もうひとつ取ってくるね」
「蘭……」
くすん、と鼻をすすりながら、再びキッチンへとむかった蘭の後ろ姿を見ながら、美奈がぽろりと涙を零した。
「正気のときと、さっきみたいに気味の悪い話を続けるときがあるの。だんだん、妄想に浸る時間が増えてきているみたい」
「そう……」
妄想話が、だんだんと具体化されていくのが怖い。
あんなふうに、彼が『帰ってくる』と断言しはじめたのは、ここ最近のことで、誰が何をいっても聞き入れない。
美奈は、自分の心の平静を取り戻そうとするかのように、早口でメイに吐き出した。
「やばいよね? あんな顔でさっきみたいなこと言われたら、ただの妄想だってわかってたって、怖くなっちゃうよ」
「うん、それはわかる。わたしもちょっとゾクッとした」
「もう、あんな男のことなんて、さっさと忘れちゃえばいいのに。蘭、かわいそうで見ていられない」
……かわいそう、ね。
美しく整った顔をくしゃくしゃにしながら、しゃくりあげる美奈の姿を、メイはどこか冷めた目で見つめていた。