よみがえりの木-4
「……ちょっと、これ、いつから? っていうか、なんなのよ、あの子、植物園でも始める気?」
「わたしに怒らないでよ、メイ。うーん、一昨年くらいから、兆候みたいなのが、ないこともなかった、っていうか」
言葉を濁しながら、美奈がぽそぽそと呟いた。
あの結婚が破談になった一件の後。
蘭はよくわからない『おまじない』のようなものに凝り始めたらしい。
どこから聞いてくるのか、あやしげな壺を手に入れてみたり、どう見ても価値のなさそうな石ころを集めてありがたがってみたり。
それが落ち着いたと思ったら、この鉢植え収集が始まって、それから本格的に言動がおかしくなってきたのだという。
「……これで、帰ってくる、って言うんだよね。カズくんが」
「え? カズくんって、婚約者だった、あのひと?」
「そう。わたしにも、ほんとに意味がわからないんだけど」
頭を抱えた美奈の後ろから、すっ、と綺麗なケーキがのせられた皿が差しだされた。
いつからそこにいたのだろう。
蘭は微笑みを顔にへばりつかせたまま、また歌うように言う。
「知らないの? カズくんはもうすぐ帰ってくるわよ」
だって。
種を植えたら、実がなるでしょう?
カズくんの種、たくさん植えたんだもの。
だから、もうすぐ、あの木の中のどこかから、カズくんが産まれてくるのよ。
この部屋にある木は全部『よみがえりの木』なの。
滔々と語る蘭に、口をはさむことはできなかった。
そのガラス玉のような瞳は、メイや美奈を通りこして、ずっと遠くを見ている。
よみがえりの木。
たしか、この町の古い伝説に、そんな話があった気がする。
何かの木の根元に亡くなった娘の体を埋めたら、翌年、花が咲いて大きく膨らんだ実の中から娘が帰ってきた、とか。
地元の人間なら、誰でも知っている。
もちろん、ただの昔話だ。
「え? 種って」
あの話の通りに考えるなら、植木鉢には『種』が埋まっているということになる。
でも、それは。
そんな。
まさか。
「あ、あはっ、もう、メイったら、そんな顔しないの。おまじないの続きなのよ、ね? そうでしょ、蘭」
場をなごませるためか、美奈が取りつくろうように笑った。
植木鉢の土をよく見ると、それぞれの鉢ごとに何かがはみ出している。
銀色の腕時計の金具。
男性用の靴下、ハンカチ、皮の小物らしきもの。
おそらく、和輝が消える前に残した、彼の持ち物なのだろう。
あれが、種か。
蘭はゆったりと首を振る。
「ううん、帰ってくるの。だって、たくさん植えたもの。もしかしたら、もういるのかもしれないわ、ほら、あの中に」
か細い指が示したのは、部屋の中でも一番大きな、ヤシの木に似た植物だった。
大きな葉が何枚も重なって繁った、そのすぐ下。
ちょうど、背を丸めた赤ん坊ほどの大きさの実が、ぶらんと重そうに揺れている。