フォーチュンクローバー-1
フォーチュンクローバーは、四人の女性漫画家のチームのペンネームである。
ストーリー担当の渡辺梨香をリーダーとする三人の女性たちはそれぞれ漫画家であるが現在はフォーチュンクローバーの執筆活動に専念している。
渡辺静香は渡辺梨香の実妹であり、高校卒業後に少女漫画誌でデビューしている。読みきり作品のみで長編連載はないが、恋愛漫画の書き手で静香の作品を読んで漫画家を目指したという者は多い。
織田真理と明智綾は渡辺姉妹のいとこである。
元々はアニメーターでメカニックデザインなどを描いていた織田真理は、渡辺梨香原作のSF漫画を描いたことで青年誌で漫画家デビューした。
明智まりあは少女漫画で入選したが、その後はホラー漫画を描いていた。
この四人の住居および仕事場は埼玉県の郊外にある。リーダーの渡辺梨香は、遠藤真から頼まれて桂太を試しで一ヶ月間だけ住み込みで漫画家アシスタントであずかることになった。
桂太は知らなかった。
フォーチュンクローバーは、成人誌で活躍中の漫画家であった。
四人が若い女性たちで、渡辺梨香が三十歳の女盛り、一番若い明智まりあは、まだ二十歳である。
美女四人しかいない家に桂太が住み込みでアシスタントで漫画家修業することになった。
もし優子がそれを知っていたら桂太に行かないでと泣いて言ったはずだ。
桂太は家事手伝いをしながら、その合間に漫画の基礎の知識やノウハウを四人のプロ作家から教えてもらうことになった。
桂太は洗濯物を顔を赤らめなから干していた。
「そんなに下着をじろじろ見るなよ」
「わぁ、織田さん!」
桂太の背後から乳房のふくらみを押しつけておいて、織田真理が囁く。
「それ、梨香姉のブラジャーだぞ」
「えっ?」
はははっ、と高笑いをして織田真理が離れていった。桂太よりも少し背が高く、髪を明るい色に染めていて肌は小麦色の涼やかか目元の美人で、体育会系らしくジャージを愛用している。
洗濯物を干してリビングを掃除機がけをしていると、肉感的な美人が「ごくろうさま」と声をかけた。
渡辺梨香は垂れ目ぎみだが大きな目とぽっちゃりとした唇をした甘い声の美人だ。服装はブラウスに紺色のスーツのスカートで清潔感があり派手さはない。巨乳なので服装が地味な分だけそれが余計に色っぽい。
(さっきのブラジャーは梨香さんの……)
「ん、どうしたのかなぁ?」
「な、なんでもないです!」
「ふふっ、まりあちゃんがおつかい頼みたいらしいんで、行ってあげて」
桂太から掃除機を取り上げて「続きはやっておくわ」と梨香がウインクする。
「すいません、行ってきます」
頭を下げて桂太がまりあの部屋をノックした。
「どうぞ、入って」
「はい、失礼します」
見た目は二十歳には見えない、ゴスロリファッションの小柄な美人がにっこりと笑う。
「山崎くん、どっちがどうしたらいいと思う?」
パソコンの画面を細くしなやかな指先でつつく。明智まりあはアダルトゲームをやっていた。
画面には全裸でベットで横たわる頬を染めて目を潤ませた美少女の画像。
「ごめんなさい、俺、こういうゲームやったことなくて、わからないです」
「ふぅん、そおなんだ。おやつにプリン買ってきておいてほしいなぁ」
「……あ、はい。わかりました」
桂太はあわてて部屋を出て、ため息をついた。すごく疲れる。しかし、前のアルバイトより時給はいいので文句は言えない。食費もただで、部屋も与えられているのである。
「山崎くんも出かけるの?」
「はい。まりあさんにプリンを頼まれてコンビニまで行ってきます」
「じゃあ、私も散歩でついて行っていい?」
ポニーテールの髪型の桂太より二歳歳上の美人がにっこりと笑った。ジーンズにシャツで化粧は薄め。渡辺静香と桂太が歩いて往復二十分ほど、並んで歩く。
「少しは慣れてきました?」
「まあ、なんとか……」
桂太はそう気を使って答えた。
「あとで部屋に来てください。ちょっと手伝ってほしいんです」
「はい、わかりました」
他の三人の部屋に呼ばれるとセクハラまがいの用事でからかわれてるのかなと桂太は思うこともある。
だが、静香の部屋ではそうしたことがなかった。
遠藤真の官能小説をフォーチュンクローバーが漫画化して連載している。
梨香は桂太に官能小説を朗読させることかある。
真理は疲れたからマッサージしてくれと言ってくる。
まりあはエロ画像をやたらと見せてきたりする。
「せっかく漫画の描きかたを習いに来たのに家事の手伝いばっかりですいません」
「こちらこそ、忙しいのにいろいろ教えてもらって、感謝してます」
「あの、山崎さんはなんで漫画を描こうと思ったんですか?」
遠藤真がヴァイオリンを即興て弾いてくれたことがあり、桂太はそのお礼に真と楓の似顔絵のイラストを描いた。それを見てとても気に入った真が「漫画家のところにアシスタントに行ってみないか?」と薦めてくれたのだと静香に話した。
「たしかに画力があります。とても素人とは思えません。美大生と思ったぐらいです。すぐに仕事を手伝ってもらえるとは来た時は全然、思ってませんでした」
「やっぱりプロってすごいなって思います。小学生ぐらいのときは漫画家に憧れてました」
「私たちは、そのまま大人になってしまった感じなんですけどね。もし、山崎さんが漫画家にデビューしたら、忙しい時は手伝いさせてください」
こんな話をしながら桂太と静香がコンビニで買い物を済ませて帰ってきた。
「今夜は宴会するぞ、静香!」
桂太が手伝いで集中線を原稿に入れていると、織田真理が静香の部屋に来て言った。桂太の歓迎会らしい。その夜はピザを注文して外には出かけずに飲み会が始まった。
「山崎、コークハイってうまいだろっ?」
真理とまりあが桂太の左右に座って酒を飲ます。
「まさに最高級クラブですよ、山崎くん」
まりあがにっこり笑ってボディタッチしてきた。