甘い口溶けを貴方と…-7
「ホントに梓が作ったのか?」
「失礼ねー! 結構頑張ったんだからぁ」
「凄いなぁ。センスあるなぁ」
「だって、二週間練習したんだもん。純一に美味しいって言ってもらいたかったんだから。まぁ、真奈に御教授頂きましたけどね」
若干ノロケが入ったようだ。だが、相思相愛な恋人たちにはノロケはつきものである。
「梓……」
だが純一には新鮮に映った。何時でも元気な印象が強いため、しおらしい梓は初めて見たのではないか、と思う。
「じゃあ俺からも渡すかな」
「え?」
今度は純一がカバンから小箱を取り出した。
「プレゼントだ。貰ってばっかりじゃ男が廃るからな」
へへ、と純一は照れ笑いをしながら梓へ手渡す。
「なになに? 開けていいの?」
「ああ、勿論」
「ええ、何だろう?」
胸を踊らせながら梓が小箱を開けると、中から出てきた物は銀色に輝く指輪だった。
「わぁー、これってさっきのお店で売ってたの?」
純一が買っていたのは、先程二人で入った店で売っていたシルバーリングだった。
「嬉しい〜! あ、もしかしてあの時慌ててたのって……」
「ああ、カバンの中に入れようと思った瞬間に来るんだから、そりゃ焦るさ」
「じゃあもう少し待ってたほうが良かった?」
あはは、と二人で笑いあう。晴れて恋人同士になったとはいえ、パッと見ではあまり変わってはいないように思える。
「あ、そうだ!」
梓が何かを思い出したように手をポン、と合わせる。
「そんじゃ、一緒に」
「そうだな!」
一つずつチョコを手にとり一口で頬張る。口の中チョコのほろ苦さ、そして甘さが広がっていく。
「 ……美味しい」
「ホント?」
「ああ。こんなに美味しいチョコは初めてだな」
「ふふ、上手ね純一」
「いや、ホントだって」
「でも安心した。美味しいって言ってもらえて」
「ホントに旨いや。もう一つ……」
どうやら純一のお気に召したようだ。そんな純一の様子を見ている梓、彼女の心にある一つの感情が湧きあがった。それは、恋する女にとっては至極当然な感情であり……。
「──ねぇ」
「ん? なに……!?」
──突然、視界が狭くなったと思う間もなく、唇に熱い感触。よく見ると、目の前には真っ赤になった梓の顔。キスだと気付いた時にはもう梓の唇は離れていたが、純一の唇にはまだ熱い感触が残っていた。
「えへへ……」
照れ笑いを浮かべる梓。それを見て純一も、だんだん自分の頬が熱くなってきたことに気付く。
「──やられた」
ボソリ、と呟く。
「何が?」
梓は首を傾げる。
「俺からキスしようと思ってたのにさ、あ〜あ、また先越されちまったな」
はは、と笑う純一。
「ふふ、まあいいじゃない! でも、ね、……甘いね」
チョコレートを食べた直後のキス。
「ファーストキスはチョコ風味、ってか?」
「そ! とびきり甘いキス! それじゃ“おかわり”ってことで……」
そう言い梓は上目遣いで純一を見る。そんな梓を見て、純一は微笑みながら、今度は自分から二回目のキスをするのだった。
梓の手作りチョコレート。彼女のチョコは、チョコとしての甘さだけでなく、恋人としての“甘い”幸せも溶けていたのかもしれない。
そして2月の少し肌寒い空の下、これだけ暖かい空気が創りあげられるのは、恋人たちの“甘さ”なのだろう。