甘い口溶けを貴方と…-6
『人って、何かした後にする後悔より、何もしなかった後悔の方が強く残るんだよ!』
そう言って送り出してくれた真奈。その激励を思い出し、梓は意を決しカバンから小さな箱を取り出す。
「ハイ!」
「え、なに? もしかしてチョコ?」
「そうだよ!」
チョコを差し出す手が次第に震えをおびてきた。
「でもね、一つだけ条件があるんだ」
今にも暴れだしそうな声帯を必死に制御する。
「私と……、付き合ってほしいの」
言って梓は純一を見ると、純一は顔色を変えず聞いている。その表情はとても真面目なものである。
「ずっと小さい時から、好きだったんだからね……」
自然と呟くほどの声になってきた。頑張って声を出そうとするが、無理である。
「お、おい、泣くなって」
純一が途端にうろたえる。言われて頬を触ると、瞳から一筋二筋と泪がこぼれていた。
正直、驚いた。
梓からチョコを貰うのは初めてのことだったこともあるのだが、何よりそれに付随して告白をされるとは思わなかった。
現在、二人は展望台の方に場所を移した。周りには誰もいない所を選び連れてきた。
手を取って歩いているうちに梓の泣き方がひどくなってきた。あのままカフェに居ては梓が可哀想だ、と判断しての純一の行動だったが、一先ず正解だった。
「ぐすっ…、はぁ……」
次第に収まってきた梓のすすり泣き。
「もう大丈夫か?」
コクリ、と頷く。普段の様子からは想像出来ない位儚げな印象の梓。こんな仕草の梓は初めて見る。そう思った刹那、守ってやらないと、純一はそう感じた。
「驚いたよ。チョコくれるし、泣き出すし」
頬を泪で濡らしながらえへへ、と笑う梓。
「さっきのは、本命チョコと思って良いんだな」
「うん、もちろんだよ」
梓がやっと満面の笑みを見せてくれた。純一はその様子を見て朗らかに話し出す。
「──あ〜あ、先越されちまったな」
「何が?」
「告白」
え、と目を見開いて梓は純一を見る。
「俺だって、小さい頃から梓が好きだったんだからな。しかし、男としちゃ失格だな、女の子に告白させて、上げ句に泣かせちまうんだからなぁ……、勇気が足りなかったってことか」
真剣な眼差しで梓を見つめる純一。みるみる内に梓の瞳からは再び泪が溢れてきた。だが、今の泪は先程とは違い、歓喜の泪であろう。
「ほら、泣くなって」
「だって、だって……」
そのまま梓は純一の胸に飛込む。純一の暖かさが、更に胸を熱くさせる。
純一の腕が梓の背中に回る。やっと繋がった二人の想い、二度と離すまいと抱き締める力が強くなっていく。
「じゃあ、受け取ってくれる?」
抱きついたままで純一に問う。
「当たり前だよ」
純一の胸に顔を埋めたままではあるが、微笑みながら言ってくれたのが声質から分かった。
展望台にはいくつかベンチがある。そのベンチの一つに寄り添って座る二人がいる。女の肩に男の腕が回り、女はその男の胸に寄りかかる。
「なあ、梓」
「なに?」
「折角梓が頑張って作ったチョコなんだし、一緒に食べよう」
「そうだね!」
梓は学生カバンを探り、チョコを取り出す。
「おお! なんか凄そうだなぁ」
可愛らしく包装された箱を開けてみると、中からはトリュフチョコなど、売り物にしても良いくらいのチョコが並んでいた。