第九話 杉野と北沢 土嚢とリヤカー-4
「おい! そろそろ砂を運び出せ」
「はい!」
杉野とその分隊員はせっせと対戦車豪を掘る。掘るときに出る砂はある程度溜まったらスコップで豪から上の砂浜へ書き出す。
砂は袋に詰めて土嚢にして、砲陣地の構築や機関銃座の防御材に利用される。もちろん人の手によって袋に詰められる。これがまた、重労働なのである。
「ふぅ〜。掘るのもきついですが詰めるのもきついですね」
砂浜で土嚢作りをしている笹川が、額の汗を手ぬぐいで拭いながら言った。彼の隣では河田が無言で砂を詰めているが、やはりその額にも玉のような汗がたくさん浮いている。
「おーし。じゃあそろそろ代わるか。木田、上に上がって袋詰めやるぞ」
杉野が、交代するよう指示する。
上で袋詰めの笹川と河田の二人が、杉野と木田に代わって塹壕掘りをする順番だ。
「はい。えぇっと……梯子ないですか?」
木田が砂浜に登るため、梯子を見渡して探す。見渡すと言っても壕内なのでそんなに遠くまで見えるわけはないが。
「あったあった。はいよ」
砂浜にいる笹川が、近くに置いてある梯子を持ってきて豪内へ立て掛けてやる。
「ありがとうございます」
木田が、梯子を登り切ってから笹川に礼を言う。同じ階級なのに敬語を使っているのは、軍隊経験が笹川の方が一年長いためである。笹川と河田が同期で、木田はその一年後の入隊である。
「こっちも、しんどいんだけどな」
木田に代わって豪内に降りてきた笹川が、ツルハシを構えながら独り言を言う。
「まぁ、さっさとしようよ」
杉野に代わって降りてきた河田が、笹川の独り言を拾って作業を促す。こちらはスコップを握っている。
二人の一等兵はせっせと塹壕を掘り始めた。
砂浜に上がった杉野と木田は土嚢作りを始める。塹壕を掘った時に出た砂が塹壕の右側に延々と積み上げられている。それを袋に入れていく。
土嚢用の袋の七割ほどまで、積み上がっている砂を詰めて袋口を縄で縛る。作業はこれだけと至って簡単な様なのだが、砂の重量がその作業を困難なものにしていた。
完成した土嚢の重さはおよそ三十キロ、物によっては五十キロ近くになるものもある。これを大の男二人がヒィヒィ言いながら大量に作るのである。