第九話 杉野と北沢 土嚢とリヤカー-2
「冗談かよ。海軍を手伝えってのかよ」
北沢が心底不満そうに言葉を漏らした。
もう一個の小隊とは北沢の所属する小隊だった。さらに応援部隊の決め手となったのは、北沢の分隊が予想以上の働きをしたからという、なかなか皮肉の利いたものだった。
「俺らががんばったからですよ」
さすがの大井も不満を隠せない様子で言った。
だが、北沢は急に椅子から立ち上がって意気込み始めた。
「けっ! まぁ、命令と言われちゃ、しゃあねぇか。そんだけ頼りにされてんだな!」
「さぁ? 上のいいように使われてるだけなんじゃ」
やけに前向きな髭軍曹は、大井の意見など聞く耳も持たず、一人で張り切りだした。一方の大井はジト目でその様を見つつ、深いため息をついた。
「で、私らが行けと言うことですか……あまり言いたくないですが、司令部は何を考えてるんでしょうな」
一方、三井小隊でも不満が噴出していた。
第一分隊長の西山軍曹がやれやれと言った感じで、三井と会話を交わしている。その隣には第三分隊長の飯田軍曹が無言で立っているが、彼もやはり不満そうな顔をしている。
「ま、まぁ命令ですから、仕方ありませんよ」
第四分隊長の酒田伍長が二人の分隊長を後ろからまぁまぁとなだめる。
「上からの命令だから、従うしかないだろう」
三井にそう言われてしまっては、二人の分隊長も無理にでも納得するしかなかった。
「すいません。陸軍にわざわざ出向くような真似をさせてしまって」
一行がガラパンに到着すると、構築現場の指揮官の海軍中尉が、深々と頭を下げた。
三井ともう一つの小隊長、工兵分隊長の三人も揃って頭を下げた。
「いえいえ、海軍陸軍の隔てがあるとはいえ同じサイパンの守備隊ですから」
三井は笑顔で謙遜した。
「助かります。それでは、これが陣地の指示書です。よろしくお願いします」
海軍中尉は胸元から陣地の指示書を三井、もう一人の小隊長、工兵分隊長の軍曹にそれぞれ数枚ずつ手渡した。
三井小隊の手配書には、対戦車豪の構築が指示されていた。
「あ……やっぱり外れだな。この任務」
手配書を見た三井は、誰にも聞こえないような小声でポツリとつぶやいた。