紅館番外編〜始まり〜-3
冷たい石畳の小部屋。 鉄格子の小窓があるだけで、他に何も無い。
ベットも、毛布も。
部屋の中央で力無く横たわっていたエルフが私に気づき体を起こした。
『………神の使いの方?』
ニコリと微笑み彼女はそう言った。
『生憎、私は違うよ。』
エルフを見据えたまま、歩み寄る。
『そう………ですか………
猫は………イシフィアの教えでは神の使いですの………』
『悪いことは言わない、改宗しなよ。』
その場に座り、エルフと目線を合わせる。
『………その言葉が、悪いことですわ………』
小馬鹿にするようなエルフの笑みに、少しむっとした………
『そう、じゃあせいぜい早く死ねるように祈りなよ。
改宗しないなら死ぬまで出れないからね。』
立ち上がり、カツカツと靴音をさせながら部屋を出て、戸を閉める。
『………』
ふと、覗き窓から中を覗くと、エルフは手を合わせ安らかな顔をしていた。
『本当に祈ってるのかい?』
『貴方のためですわ。
貴方の苦悩が早く無くなりますよう………』
目を閉じたままエルフが言った。
『………っ! じゃあ早く死になよ! 君が私の苦悩だ!』
バタンと窓を閉め、歩いていく。
あぁ、何故こうも頭に来るのだろうか?
『明日の審問は正午からだからな〜♪ 遅れるなよ〜♪』
キシンの通りすがりの一言に更に気分は悪化し、王宮に戻るまでそれは続いた。
『兄上、待ってましたよ。
食事にしましょう。』
王宮に帰るとナインツが迎えてくれた。
『あぁ、そうだな。 食べよう。』
私は王宮の外に屋敷を持っていたのだが、最近は仕事が忙しくてろくに帰っていない。
ナインツがわざわざ私の部屋を王宮に作ってくれたこともあり、ますます帰宅率は低下した。
王宮の夕食では、ナインツと妃、そしと私だけで食べる。
今日のメニューは魚のムニエルだったが、さっきまであんな拷問の行われている場所に居たため、食欲は湧かない。
『兄上、どうかしましたか?』
私の食が進んでいないことにナインツはすぐに気付いた。
『ん、審問所に言ってたから食欲湧かなくって。』
私の言葉にナインツはあぁ、と頷く。
『兄上が珍しく審問の仕事を受けたと思いましたが………』
ふぅ………と溜め息を吐き、席を立つ。
『悪いけど、私はもう休むよ。』
ナインツ達に言い、自室へ戻った。
明日も審問所に行かなければいけない。
『あのエルフ、今頃何してるのだろう?』
まだ祈っているのだろうか?
『………無駄なことを。』
ボソリと呟き、ベットで横になる。
目を閉じて眠ろうと思うが、眠りは簡単に訪れてはくれず、その日は遅くまで眠れなかった………
審問の二日目は冷たい水責めが行われた。
座らせている椅子ごと大きな水槽に浸けることが何度も繰り返される。
エルフは終始黙ってその水の冷たさに耐えていた。
そして、審問官から改宗を勧められた時にだけ、ハッキリと拒否した。
夕刻になり、また独房にエルフが入れられた。
『良く持つね。』
『ん………まぁ、二日目だしな。 だけど悲鳴一つ上げないから大したもんだよ。』
彼女の独房の前で私はキシンと話していた。
そして、キシンに言って開けてもらい中に入る。