第八話 常夏の陣地構築-3
「よーし。俺たちは対戦車豪を掘るぞ」
「はい!」
三井から出された指示で、杉野分隊は戦車豪を掘ることになった。
砂浜に穴を掘ることは決して容易なことではない。小さな砂粒は、高密度で体積していて、スコップの一堀り一掘りが、かなりの重労働だった。
杉野ら第二分隊の前では、第一分隊が三井と共にヤシの木材で組んだ障害物を、膝まで海水に浸かりながら設置している。後ろには第三分隊が同じく戦車豪掘り、第四分隊が速射砲砲座をせっせと造っている。さらに後方の丘では工兵隊がトーチカを造っている。その後ろ、内陸にそびえるヒナシス山には、すでに砲兵陣地が完成していて、山の谷間から海岸を睨んでいる。
「はぁ……はぁ……きついですね、塹壕堀りは」
後ろにいるの笹川が、塹壕内に溜まった砂をスコップで掘り出しながら言った。だいぶ息が上がっている。昼食のおにぎりが支給され、少しの休憩を挟んだ以外は、ほとんど塹壕を掘っていた。
「そうだな。そろそろ日が傾いてきたから、じきに切り上げるだろう、もう少しがんばれ」
杉野はツルハシで砂山を切り崩しながら振り返らず言った。午前中から始めた対戦車豪はかなりの長さになっており、十分実用可能な域に達していた。
「よし、三井小隊は切り上げるぞ!」
三井少尉の声が響き、作業中の小隊員は一斉にその場にへたり込んだ。
「やっとか」
「腰が折れちまうぜ」
杉野分隊の面々は疲労の色を隠しきれない様子で口々に呟いた。
「ほらほら、さっさと営舎に帰るぞ!」
杉野はいち早く立ち上がって皆を励ます。もっとも、叶うなら杉野自身ももっと座っていたかったのだが。