第八話 常夏の陣地構築-2
三井少尉の、少々にやけた顔での点呼が終わり、朝食を喋る暇なく済ませた三井小隊の面々は、陣地構築のため、海岸へと向かった。手には小銃ではなく、スコップやツルハシなどの陣地構築のための道具がそれぞれ握られている。
「おし、ここらだな。おーい、そこの工兵殿!」
海岸に着くと、一番先頭を歩いていた三井が、陣地の手配書らしき紙を見ながら指示を下していた工兵を見つけ、呼びかけた。三井から工兵までの距離では階級まで確認できなかったので、三井は”殿”とつけて呼んだ。
呼ばれた工兵は息を切らして走ってくる。
「一一八連隊の三井小隊です」
「三井小隊ですか。えぇっと……あった。これが陣地の手配書です。すいません、工兵隊も手が足りてなくて、あまり一部隊の指示に留まっていられないのです」
少尉の階級章を付けた工兵は、軽く敬礼をした後、胸ポケットに四つ折りになって入っていた、いくつか中の一枚を三井に渡し、心底申し訳なさそうに言った。
「いや、構わんよ。うちの数人は陣地構築の経験もあるので心配はない」
「そうですか。助かります。何か資材が足りないなどがありましたら私含めて、駆け回っている工兵を捕まえてください。では、お願いします」
また軽く敬礼をして工兵少尉は、先ほどの場所へまたもや走って戻り、大声で指示を出し始めた。どうやら、だいぶ人手が足りていないらしい。
ここ、第一一八連隊が防衛を務めるチャランカノア地区のチャランカノア海岸では、同じくチャランカノア防衛を務める、独歩第四七旅団の第三一六大隊の将兵と、派遣されてきた二個工兵分隊と共に、陣地構築に駆り出された。
水際陣地と呼ばれる、文字通り、海岸線ギリギリまで配置された防御陣地を当初の日本軍は採用していた。
この防御陣地は、敵兵が本来の力が発揮しにくい上陸直後を狙って殲滅せん、とする考えに基づいて考案されたもので、うまく実力の発揮できない敵部隊を、ほぼ一方的に叩けると誰しもが疑わなかった。
潮が満ちると隠れる対上陸船用場障害物、幾重にも重なった対戦車壕、そして各種機関銃、野砲、速射砲砲座が、巧妙に射線を交差させるように海岸線に配置された。さらに少し奥に入った小高い丘に、野砲砲座と砲弾観測所、部隊指揮所、コンクリート製の強固なトーチカ群が造られ、敵兵を一人残さず殲滅できるよう、正確に計算されて陣地構築がなされた。