第六話 憲兵-1
杉野と今野の乗る、憲兵殿から”拝借”したくろがね四起は、チャランカノアへの道をゴトゴト走っていた。両脇は見事なサトウキビ畑が広がっている。道が切り開かれているとは言え、道自体はかなりデコボコしていて、揺れが激しかった。
「本当に……また会えて嬉しいぜ」
運転している今野が口を開いた。
「まったくだ……今野は、おっと……復帰した後、いつからサイパンに入ったんだ?」
車の振動で言葉を詰まらせながら杉野が質問した。
「俺は三月からサイパンにいる。もう暑いのは慣れたぜ」
そう言って今野は、左手で顔をパタパタと扇ぐ真似をした。
今野は、杉野と同い年でお互いの故郷も近く、初年兵の入営時に右隣に寝台を並べた戦友だった。それ以降、第五師団へ配属されるときも、南方で初陣を飾ったときも、二人で頑張ってきた唯一無二の戦友同士だった。
今野の実家は米農家なのだが、彼曰く、次男坊だったため家を継ぐ必要がなく、ある程度職業選択の自由があったのだが、何をすればいいか決めあぐねているうちにふらっと軍隊へ入ってしまったという、まこと、彼らしい理由で、軍人を志して入隊した杉野とはまったく真逆のものだった。
ただし、兵士としての腕は確かであり、特に狙撃の腕はピカイチだった。杉野や、ほかの肩を並べて戦った兵士は皆、今野の狙撃をいつも頼もしく思っていた。
「さぁ、そろそろチャランカノアだぜ」
今野の言った通り、十分ほど走った頃に建物がぽつぽつ増えはじめ、やがて市街地とも言える風景に変わった。すでに陽は西へ傾き夕焼け空になっている。
しかし、ここで問題が起こった。
第一一八連隊の営舎前に、数名の兵士が詰めていて、奥には数台のくろがね四起の姿も見える。
「うん?検問か?」
運転席の今野がハンドルを握りながら少し前かがみになったかと思うと驚きの声をあげた。
「しまった。ありゃ憲兵だ!! 拝借したのがばれてやがる!!」
「なんだって!?」