第五話 機関銃分隊の二人-1
「おい、ここが俺らの営舎だって?」
ぶっきらぼうに軍曹の階級章を付けた髭面の兵士が、営舎と思われる建物を見て問う。
小学校を思わせる木造に二階建ての兵舎が三つ、訓練をコの字に囲むように建っていて、訓練場の隅に炊事場二棟と浴場、日当たりのよさそうな場所に洗濯場と物干し場が置かれている。本土や満州と同じ、一般的な営舎だった。
「そのようですね。気に入りませんか?」
すぐ後ろを歩いていた、頭に包帯を巻いた上等兵が即座に答えた。
「いや、十分だ。もっとも船と大海原に比べたらな」
「そりゃそうですね」
髭面の軍曹、北沢が後ろへ振り返ってざっと兵士の隊列を見やった後、顔を前に戻して、こうつぶやいた。
「だいぶ減ったな」
頭に包帯を巻いた上等兵、大井が苦い顔をして言葉をつなぐ
「船がやられたんです。どうしようもないですよ。拾われただけでもめっけもんです……」
普段は陽気な二人もさすがに普段のようにはいかなかった。
搭乗していた輸送船、はあぶる丸が撃沈7されたとき、彼ら二人は自分隊員と共に甲板への階段を駆け上がっていた最中だった。すでに一発目の魚雷により、船は左へ傾斜し、船内はいたるところに物が散乱し、かすかに重油の臭いがしていた。通路と階段は外へ脱出しようとする兵士でひしめき合い、息をするのも苦しいほど酸素が不足していた。。そこへ、とどめとなる二発目の魚雷が襲い掛かった。
激しい衝撃が一同を駆け抜けたと思ったとたん、一瞬にして周りが炎で包まれた。バックドラフトと呼ばれる、不完全燃焼で発生した一酸化炭素に、酸が急速に結びつくことにより爆発する火災現象だった。
階段の出口付近まで迫っていた北沢と大井ほか、数名の隊員は被弾の衝撃で運よく甲板へ放り出されたが、残りの隊員は軒並み生きたまま、焼き殺された。