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『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件』から十年後
【二次創作 官能小説】

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そっと優しくリボンをかけるように-2

 三人の少女を前に俺の心と記憶は、五年前を彷徨っていた。

病院の新生児ルーム前

愛しい娘たちを目にしながら、妻はまるでそれを予期していたかの様に呟いた。

「友達の名前、みんなの名前にしたい」
それはまるで胸の奥に秘めていた想いを吐露するかの様であった。

俺は一瞬複雑な想いが過ったが、妻の手を握りながら頷いた。


 そして、あの日に想いを馳せる。

清華院高等部を卒業する日、俺が清華院を離れる日、そして仕組まれた運命を受け入れる決断をする時。
その運命を受け入れる代わりに、たったひとつだけ許された俺の選択。

俺は白亜の居るラボへ走っていた。

麗子や愛佳や可憐、みんなと過ごした庶民部での出来事が走馬灯の様に脳裏を過る。

誰の事が一番好きかって聞かれると、きっと返答に困ってしまうと思う。
だけど誰に一番必要とされ、誰を一番必要としているのかと問われれば、答えは決まっていた。
それはもしかしたら俺の独りよがりな想いで、相手にとっては違うのかもしれなと不安が過る。

それでも俺の清華院で過ごした三年間で出した答えに迷いは無かった。

麗子にはキラ星の如く友人たちが、当初は“ボッチ同士”だった愛佳と可憐は庶民部を通して互いの存在が生まれた。

 しかし白亜には……

確かに白亜には、チームとして支えてくれるメイドさんたちは居る。
庶民部のみんなを“ともだち”と認識し、心を通わせつつあった様にも見える。
だけどそこには、まだ目には見えない何か壁の様なものが俺には感じられていた。

そしてそれは俺自身、神楽坂公人にも同様の事が言えた。

傍から見れば心清き良家のお嬢様に囲まれ、モテモテのリア充に見て取れる三年間だったと思う。
……はたして本当にそうだったのだろうか?

元来ここに集う良家のお嬢様と俺とでは決定的に違う。
それは上手く表現出来ないが、少なくとも物質的な物では無い何かなのである。
決して交わる事が出来ない様な、そんな感覚。

結局俺は三年間かけても、その答えを見つける事は出来なかった。
でもそれを一緒に見つけたい相手を見つけらる事が出来た。

『白亜!』
俺はラボの上階から、幾つものモニターに向かい合い並行作業をする少女に向かい叫んでいた。
見慣れた少女のつむじ、そして以前にも経験したこの光景。

「「「「!!!!」」」」
俺の叫びに少女をサポートするメイドさんたちの視線が集中する。

空気は異常な膨らみを見せ、一瞬にして昇華する。

あまりの緊張と興奮に自分自身どんな告白をしたのか、正確な事を覚えていない。
気の利いたセリフを繰り返し練習していたが、微かな記憶ではかなりベタな言葉を伝えるのがやっとだったと思う。

白亜は、こくりと大きく頷き微笑んでくれた。
それはまるで俺のベタな告白に、そっと優しくリボンをかけてくれる様であった。

『『『『おめでとう』』』』
まるでエヴァのラストシーンの様に、いつの間にかラボのスタッフ全員に囲まれ祝福の言葉を受けていた。

顔を赤らめ俯く白亜を見て、涎を垂らすメイドさん、鼻血を大量に吹き溢すメイドさん、失神するメイドさんとラボは収拾がつかない状態になる。

こうして白亜は高等部一年にて、清華院女学校を休学する事となる。

それにより白亜のラボに研究を依頼していた学会や企業が大混乱した事は言うまでもない。

 俺が清華院に拉致された当時、汐留白亜は中等部二年の十四歳。
校内ではその存在を知らぬ者が居ないほどの超天才児であったが、その容姿は十歳程度の幼女そのものであった。

しかしそんな白亜も庶民部の活動を通してなのか、少なからず他人と触れ合う事で変化が見られ始める。
それはまるでまだ小さな薔薇の蕾が、大輪の花を咲かせて行く様な三年間の変化であった。

それと呼応するかのように白亜の“閃き”は減少して行くのだが、それでも他に類を見ない超天才である事に疑いの余地は無かった。

これは俺の勝手な仮説であるが、今まで白亜の中のエネルギー配分が一極集中していただけなのではないかと思っている。
それが何かの切っ掛けで本来在るべき状態に戻ったのではないかと思っていた。

 ある時それを白亜の専属メイドである崎守さんに話してみたら、至極自然に同意されこう付け加えられた。

「その切っ掛けにお気付きになってないのは、神楽坂様だけですよ」
そう悪戯気に微笑むと、数秒後にはプロフェッショナルの顔に戻り仕事に戻っていた。

痩身の少女である事に変わりは無かったが、中等部卒業時には愛佳と変わらぬ身長にまで伸びていた。
その変容ぶりは外面的な要素のみに留まらず、今までほとんど無かったフラットな喜怒哀楽の表情が誰もがそれと解るまでになっていた。

※次回(仮)それは眠れる森の美女のように へ つづく

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次回更新は10月2日前後を予定しています。今回初めて二次創作にチャレンジしてみました。BBS等よりご意見ご感想を頂けたらありがたいです。また“庶民サンプル”ファンの方に対しては、お目汚しで申し訳なく思います。お許し下さい。


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