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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 後編-15

あなたの書こうとしている作品も、一にして全て、全てにして一であるアザトースの夢でつながっている。
私たちは書きながら想像する。さまざまな人物を、その運命を、その世界を、その肌ざわり、その匂いを。
私は夢でみたことに無理やり起承転結をつけて、夢でみた人たち名前を変えて、小説らしいこしらえをつけて書いた作品を出版社のコンテストに応募した。
それから二十年、今では作家としてコンテストの審査員として参加している。
ある日の午後、親しい編集者がコンテストの応募作を読んでため息をついていた。誤字脱字だらけの原稿を私は見せてもらった。
私にはすぐにわかった。
その応募者も夢であちら側の世界をみて小説に書こうとしたのだ。
私はこれを応募したのが誰か知りたいと編集者に持ちかけた。編集者はいぶかしげに私の顔を見た。
「あれは小説じゃありませんでしたよ」
誤字脱字がある原稿は、草稿というべき状態のものであった。
私は編集者の彼女と、いつもと変わらず彼女の部屋でセックスしてから、二人で珈琲を飲んだ。
その時に私も夢でみたものを作品にしてデビューしたことや、私の知らないあちら側についてふれられているので、その応募者に会って話が聞きたいのだと彼女に頼み込んだ。
彼女はラヴクラフトの作品を含むクトゥルフ神話を題材にしたホラー小説のファンで、その趣味から編集者になった女性である。彼女は私の話を聞いて興味を持った。私は夢にみたバルディス大陸の物語を書いていたが、スランプに陥っていた。私が夢に頼らず想像する物語は痛ましいほど駄作である。編集者の彼女が私が原稿を読んで興味を持ったので会いたいということや、コンクールの選考とは関係ないことを注意深く電話で伝えていた。
デビューできると誤解させてはかわいそうだと、私や編集者の彼女は思ったからだ。
「彼女もあなたのファンで会いたいそうよ」
編集者の彼女は仕事の都合で私が一人で会いに行くことになった。
「先生、ファンの子だからって手を出したりしちゃだめですからね」
彼女は他の作家がファンに手を出してストーキングされたおそろしい話を私に聞かせるのだった。
私は待ち合わせした都内の喫茶店で待っていると、そこに現れたのは夢でみた蛇人の少女そっくりな容姿をした少女だった。
「若く見られますが、これでも二十歳なんですよ」
私は胸の高鳴りが激しくなった。私は夢の中で、村長マーシュとなり、蛇人の少女と死ぬほどセックスしたのである。
頭の中で、つきあっている編集者の彼女の顔やわずかに他の女性に会いに行くことへの嫉妬を含んだ声を思い浮かべた。
「先生の作品では書かれていないことがたくさんありますよね……」
そういうとテーブルの上の私の手に、蛇人の少女に似た彼女がすっと手を重ねた。
私たちタクシーに乗り込むとラブホテルに行った。私は部屋で彼女を抱きしめると、夢の中で嗅いだ匂いを鮮明に思い浮かべることができた。
彼女の服を脱がせてみて、鱗がないことにがっかりしたが、彼女は私のペニスを口に含んだ途端に私は驚きと興奮に言葉を失った。
その舌づかいやしゃぶっている表情は夢の中と同じであり、射精してから彼女に話すと、くすくすと笑いながら「夢の中で私は何度も先生に抱かれてますから」と言った。私は夢の中のマーシュと同じように彼女をベットに横たえて、体のすみずみまで撫でたり、舐めたりして楽しんだ。
私は虚構と夢が現実として現れてくるのを体験した。
蛇人の少女に似たこの女性は、愛という名前でさやかの同級生であった。そして、愛の幼なじみはハスターの寵愛を受けた青年、タナトスの黒霧を霊視する霧野斗真であった。
私が上からかぶさるように勃起した性器を愛に挿入すると、破瓜の痛みに耐えながら愛はぎゅっとしがみついてきた。
私はそのまま愛の膣内に射精してしまった。マーシュとして感じていた快感の記憶と現実に愛の膣内に挿入している快感が重なりあったような感覚であった。
私は理解した。
ニャルラトホテプに私は選ばれてしまったのだ。愛とセックスしたことで、皇子アルフェスやランドルフ・カーターのようにニャルラトホテプとの契約者としての宿命に足を踏み入れてしまったことを。
中神さやかが実在していて、あちら側に渡ったということは、こちら側の世界にもいにしえの神々の脅威が存在している。
愛がコンテストに応募した小説作品は、たしかに編集者の言うように小説ではなかった。それは、こちらの世界で書かれた不完全な無名祭祀書であった。
「きっとあれを読めばわかる人にはわかると思ったんです。そのために応募してみました」
アブドゥール・アルハザードの魂は魔道師ルシャードによって無名祭祀書が復元されることで目ざめた。
そのためこちら側の世界でも無名祭祀書が復元されようとしているのだ。私は気づかぬうちに、世界の禁忌であるいにしえの神々について、執筆していたのである。もしも愛が契約者を探し出すために無名祭祀書をコンテストに応募してなかったらと考えると、あまりに恐ろしい。
フォン・ユンツトのように変死していたか、ディルバスのように世界を渡って変革をもたらそうとしていにしえの神々の気まぐれで滅ぼされてしまうか、いずれクトゥルフ神話を題材にしたホラー小説の登場人物のように悲惨な死にみまわれていたはずだ。
私は小説の題材に困らなくなった。異世界からの敵との戦いに巻き込まれたからである。
さらに私にはこの世界の運命よりも困った問題を抱えこむことになった。
編集者の絢子と女子大生の愛とふたまたでつきあうことになってしまったのである。
絢子はベットの枕元にクトゥルフのディフォルメされたぬいぐるみ「クトゥルーちゃん」を置いて寝ているが、浮気がばれたら絢子は海神クトゥルフに祈り、本気で私を呪うために儀式ぐらいするかもしれない。
はっきりいって、私はいにしえの神々より、二人の愛人たちの嫉妬のほうがおそろしい!

[完]


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