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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 後編-11

ヨグ=ソトースの力ではなく、ディルバスは知識不足からアトラク=ナクアの力で、自分の身代わりとなるべき者を召喚した。ヨグ=ソトースからすれば、さやかは排斥すべき侵入者である。
そのため隠れ棲むものとも呼ばれる蜂のようなミ=ゴがさやかを襲った。
ミ=ゴはヨグ=ソトースの下僕である。
ニャルラトホテプの触手でガーヴィがミ=ゴを撃退した。聖騎士はともかく、兵士では撃退できず犠牲となるだけだったろう。
アトラク=ナクアの力で選ばれたのは、さやかの前世が古代の土蜘蛛の首長や、平将門の伝説で語られる桔梗姫であったからである。
アトラク=ナクアの化身である人物は、ハスターの寵愛を受けた者と同じように、何度も転生して出現しているのであった。
クトゥルフの眷族と戦うために、アトラク=ナクアの化身は肉体を石化させたり障気の毒で人々の理性を崩壊させたりしたが、脅威があまりなく、さらにニャルラトホテプがいる世界ではアトラク=ナクアの化身もおとなしい。
アトラク=ナクアの化身は、ニャルラトホテプの力を与えられた者とはちがい自分がいにしえの神の力があるとは自覚せずに歴史に干渉していることがある。
ニャルラトホテプ、アトラク=ナクア、どちらも、危険であるのはかわらない。
万物の王にして混沌そのものと呼ばれるアザトースの夢の中に夜空の星々よりも多くの世界が存在しているが、その世界のひとつで厄災が起こり、多数の犠牲者が出ようと些事にすぎない。しかし、そのひとつの世界で生きている者からすれば厄災は些事だと軽く受け流すことはできない。深刻な問題なのである。
不完全な無名祭祀書の修復はかつてルシャードが解読を試みたことがあり、加筆、修正が行われた。
ルシャードは無名祭祀書の修復作業を、賢者の塔で引きこもり三日がかりで行った。
(老師アルハザード、僕がわかる?)
(おお、わかるとも。転生しても髪の色が変わっただけで見た目は変わらぬとは)
ルシャードは皇子アルフェスとウルタールの猫の末裔にして前世ではドラゴンであったセリアーニャと女子高生さやかの三人が戻る前に、ガルシーダで何があったのかを無名祭祀書から聞き出した。
滅びた海賊の島とガルシーダとマサチューセッチュ州のアーカムで魔女狩りの陰惨な事件が起きていた。
現在のアメリカ合衆国ニューイングランド地方のマサチューセッツ州セイラム村で1692年にはじまる一連の裁判をいう。
200名近い村人が魔女として告発され、19名が処刑され、1名が拷問中に圧死、5名が獄死した。無実とされる人々が次々と告発され、裁判にかけられた。
牧師サミュエル・パリスの娘ベティーと従姉妹アビゲイル・ウィリアムスは友人らとともに親に隠れて降霊会に参加していた。その術中、アビゲイルが突然暴れだすなど奇妙な行動をとるようになった。
二人は医師によって悪魔憑きと診断された。
その後、アン・パトナムJr.、マーシー・ルイス、メアリ・ウォレン、メアリ・ウォルコット、スザンナ・シェルドンらがつぎつぎと異常な行動をおこすようになった。これは降霊会の参加者たちだった。
近隣のジョン・ヘイル牧師を招聘して悪魔払いが行われた、だが失敗した。
サミュエルは黒人の使用人ティチューバを疑い、彼女を拷問し、ブードゥーの妖術を使ったことを『自白』させた。サミュエルが娘たちを詰問したところ、娘たちは村内での立場の弱い3人の女性の名前を上げた。
1692年、セイラム村には判事がいなかったため、近隣のセイラム市から判事を招き、3人を収監するための予備審査が開かれた。
サラ・グッド、サラ・オズボーンは容疑を否認した。しかし、証人として列席していた悪魔憑きの娘たちが暴れだした。
二人が悪霊を使役していると証言したため、二人は有罪とされてしまう。
ティチューバは自白すれば減刑されるというピューリタンの法解釈から悪魔との契約を認め、求められるままに証言を行った。ティチューバが他の関係者の存在を示唆したことから、再度、娘たちが詰問され、マーサ・コーリー、レベッカ・ナース、ジョン・プロクター夫妻らがつぎつぎと告発された。
100名の告発があった時点で、収監施設がパンク状態に陥ったことから、6月2日より順次に絞首刑に処せられた。
最終的には200名が逮捕された。
娘たちの証言に疑問を呈するものがあるとして10月にボストンの聖職者から、知事に上告が申請された。
事態を知った州知事が裁判の停止を命令。
1693年、収監者に対し大赦を宣言し、収束した。
裁判にも関与したジョン・ヘイル牧師は、死後に発表された手記の中で「我々は暗雲の中に道を見失った」と記している。
これがアーカムの魔女狩り事件である。
(滅びを紡ぐものアトラク=ナクア。その力のため別の世界で起きた事件が連鎖的な影響を生み出すのだ)
(うん。それぞれの世界で暮らす人たちの意識が同調してしまったんだろうね)
滅びの島の混乱は皇子アルフェスとセリアーニャがダンジョンで見つけてきた蛙人コル=スーによって犠牲者の数を減らした。
ガルシーダでは教祖であるディルバスが焼却されてしまったので事態は収束した。
アーカムは1914年に大規模な火災により、街の大部分を焼失している。
火神クトゥグアの脅威は、ディルバスや島の民を焼き払っただけでは終わらなかったのである。
(……アーカムとガルシーダが、世界の狭間を越えてつながってしまったことが気がかりではある。インスマスともこちら側がつながっているならクトゥルフの眷族がこちらの世界に侵入しているだろう)
アルハザードの推測によるとアーカムはインスマスやダンウィッチなどにも道が通じている。インスマスの地はクトゥルフの影響、ダンウィッチの地はヨグ=ソトースの影響がそれぞれ強い。
さやかを襲った蜂のようなミ=ゴはダンウィッチにあたる位置にある森から現れた。
ランズベルの村は、インスマスの位置にあたる。


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