大-2
「加奈?久しぶり」
「近くに住んでるのに、会わないね」
「加奈。こんなに毎日遅いのか?」
「今日はたまたま。月に1度の残業」
「こんな時間に一人で歩くなよ」
「はいはい」
やけに親しそうなその女性が私に気付くと
「彼女?」
と山崎をからかった。
「違う。同僚」
「ふ〜ん」
ニコニコして私の方を覗き込んで
「加奈です。山崎くんとは同じ大学だったの」
「井上です」
そんな、したくもない自己紹介をして
加奈と名乗った女性がまだ話したそうにしていたら
「ごめん。加奈。コイツ終電」
と山崎が遮った。
さっきから。
加奈、加奈って。
「あ。ごめん。そんな時間か。山崎くんまたね」
手を振って歩いて行く女の子の後姿を
女の子が角を曲がるまで見届けた後
「行くぞ」と言って歩き出す。
「元カノ?」
そんなこと聞いたってしょうがないのに。
「まぁ・・・そう。だな」
歯切れの悪い山崎になんだかモヤモヤして。
改札が見えてきたら
私は駆けだして行った。
「今日はありがとう。明日のデート成功させて見せる」
「あぁ」
「ありがとう。山崎」
「あぁ」
それきり、二人に言葉はなかった。