もらい湯-1
終戦から15年過ぎた昭和35年、木曽路にも9月に入ると一足早い秋が訪れようとしていた。
ひとり娘をようやく育てあげ長女を名古屋に嫁がせてひと段落したあい子は、夫の残した恩給と手内職で慎ましい生活を送っていた。
秋の稲刈りの手伝いを終える頃には日は落ちて、山間の集落は夕なべの支度に掛かる。
そして夕食を済ますとお互いもらい湯といって交代で風呂に呼び合う時代であった。
今日はあい子が隣のヨネ婆と勝男を風呂に招待する晩である。
目の不自由な勝男はヨネの小さな肩にすがりながら夜道を歩いた。
「こんばんわ、あい子さんよろしく頼むよ」
「はい、勝ちゃんの事はまかして、お先にどうぞ」
ヨネはもう70を越えた老婆である、孫の世話はいつもあい子に任せていたのである。
「勝ちゃん、こっちに入って」
いつもの事であるが居間に上がってヨネを待ち後から風呂に入るのである。
「おばさん、少し腰でも揉みましょうか・・」
勝男もまた戦争未亡人の子であったが母は行きずりの男と駆け落ちして村を去った。
その後はいくらかのマッサージの収入とヨネの年金で粗末な暮らしであった。
「いいの、すまないねえ稲刈りして腰が痛いのよろしくね」
あい子はまだ野良着のまま居間の座布団の上に伏せた。
勝男はあい子の甘酸っぱい体臭を感じながら横に座りいつものように弾力のある腰を揉みながら極めたツボを探っていた、少年時代の（そこひ）がもとで失明して10年になる、あい子の美しかった姿は今も覚えている。
「勝ちゃん気持ちいいよ、やはり上手いね」
「そうですか・・・」
「そういえば勝ちゃんが赤ちゃんの頃、私のおっぱい飲んだんだよ、あなたのお母さんの
お乳が出ない事があってね・・・」
勝男は照れ笑いを浮かべながら幼い自分を見捨てて男と居なくなった母を思い出した。
それ以後祖母のヨネと、このあい子が勝男の唯一の心の支えであった。
「おばさん跨るよ、少し重いかもしれないよ」
勝男は手で腰の位置を探りながら跨いであい子の尻に体重をかけた、そして肩から背中に体重をかけながら揉み始めた。
勝男の股間があい子の尻に触れると柔らかな感触と温かな体温が股間に伝わり始めた。
若い勝男の股間である、にわかに硬くなり始め変な気分を感じる事となった。
「 気持ちいいわ、今夜は良く眠れそう」あい子は目を閉じて肩や背中のコリがほぐれてゆくのを感じていた。
勝男は無意識のうちにあい子の尻の弾力の心地よさに陶酔し、硬くなったペニスをいつの間にかこすり付けつけていた。
あい子もまた密かに勝男のモノが硬くなっている事に気付き、誰が教えるまでもなく、すでに大人の男に成長している事を悟ったが平静を装った。
暫らくするとヨネが風呂からあがってきた。
「あい子さんいい湯でした、勝男もお風呂もらいな」
湯上りの顔を照らしながら居間に入ってきた。
「勝ちゃんありがとう、気持ちよかったわ、さあお風呂に行きましょ」
あい子は起き上がると勝男の手を取った。
「すまないねえ、お願いするよ」
「勝ちゃんいくよ」
土間の下駄を履かせると勝手口から少し離れた風呂場に向かった。
「足元、気をつけて・・・」
あい子は手を引いて風呂場の入り口の戸を開けて勝男を脱衣場に誘導した。
「お風呂から上がる時、大きい声で呼んでね・・・脱衣の籠はここよ」
「ハイ・・」
勝男はまだ収まりきらないペニスを気にしながらモジモジしているのが見て取れた。
あい子は恥らう勝男がすでに大人になり男としての性を意識し始めているのが分かった。
「じゃあ、おばさん行くから」
あい子はそう言って戸を閉め母屋へ入っていった。
「あい子さんのお陰だよ、わしらのような者がどうにかこうして生きてゆけるのも」
ヨネは恐縮した様子で頭を下げた。
「もし、ワシがおらんようになってもどうか勝男の事頼みますよ」
あい子は気立てのいい女である、もしもの事があったときは勝男の事は面倒みるつもりでいたのであった。
年が開けその数ヶ月後ヨネは76歳の往生を遂げるのであった。