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逃亡
【その他 官能小説】

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逃亡-3

それから約一ヶ月後。

 保守党の国会議員元村誠八は、追いかけてきた記者達を振り切るように、迎えに来た黒いクラウンに乗り込んだ。
「まったく、マスコミの連中は政治というものがわかっておらん。政治はきれい事じゃあないんだ!」
 ドアがしまった途端、元村は誰に言うともなく憤慨した口調で怒鳴った。
 前の内閣で自治大臣・国家公安委員長を勤めた元村は、政界の強面で知られている保守党タカ派の実力者である。権力の階を着実に登っていき、いよいよ次期党首・首相の呼び声すらかかるようになってきた。
 しかし、今週のはじめ、秘書が自殺して様相は一変した。秘書の遺書によって大臣時代の汚職が明るみに出ることとなったのだ。今やマスコミや野党の追及を受ける身となり、明日には検察庁の事情聴取をひかえている。
「国を憂うるワシの気持ちがわからんのか!」
 吐き出すように言ったそれが、彼の最後の言葉となった。
 運転手がアクセルを踏んだ瞬間、ドーンという衝撃音とともに車は炎上し、元村の身体は炎の中で吹っ飛んだ。

 事件発生から一時間後、現場では、警視庁による現場検証が行われていた。
 野上準司は、炎上した自動車の残骸をレッカー車が移動させるのを見ていた。
 彼は田沼産業社長令嬢の誘拐事件を担当し、犯人の部屋に飛び込んで無事に社長令嬢を保護した功績が認められ、一月ほど前に警視庁に配属になったばかりであった。
 残骸が動いた途端、野上は思わず声をあげ、道路を指さした。
「あっ、これは!」
 作業にあたっていた警察官が一斉に道路を見た。爆発した自動車が動かされたあとに、赤いペンキで書き殴られた文字が踊っていたのだ。
「東京拘置所に勾留されている緋村一輝を釈放し、現金10億円を出せ。この要求を拒否すれば次の"しかけ"を使う PFFT」
「やっかいな話になってきたぞ…」
 野上は、興奮した時の癖でボサボサの頭を掻きながらつぶやいた。


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