加護の灯-1
「こちらをお召になってください」
家臣のひとりに外套を渡され、受け取ったアレスはそれがすごく軽い事に気が付く。
真っ白なしっかりした布地に銀色の刺繍が袖や裾に施されている。
(銀色・・・悠久では王の色とされ、もっとも高貴なものだ。使者は王の使い。だから銀の刺繍が許されている)
アレスとカイは初めての使者の外套を手にし、色の持つ意味に身が引き締まる思いがした。
そしてそれを羽織りキュリオへと視線を戻すと・・・
白い布が巻かれているあの細長いものの正体が明らかになる。
銀色の長い柄の先にランプのようなガラス張りの飾りがついていた。
「・・・あれに加護の灯を入れるんだ」
小さく呟いたアレスは食い入るように注目している。
しかし、その灯の正体は何なのかわからない。見たところ中身は空のようだ。
「よく見てろよお前ら」
ブラスト教官がカイとアレスに囁いた。
(・・・何が始まるんだ?)
幼い二人は顔を見合わせ、ブラストの横から顔を出す。どこからか出された台座のようなものにそれは固定されている。
するとそれに近づいたキュリオはゆっくり目を閉じていく。すると背中にまばゆい光が集まっていき・・・光がひとつのカタチになるのは一瞬だった。
「つ、翼だ・・・」
彼の身長よりも大きな真っ白な翼が広間全体を明るく照らす。日の光よりもあたたかく、よく見るとその翼は白というよりも銀色というほうが正しい色合いを放っていた。
キュリオが片手を胸元まで持ち上げると光が球体のように集まり、一枚の羽を象っていく。
「銀の炎が宿されていると聞いていたけど、その炎の正体ってキュリオ様の翼の一部だったのか・・・」
アレスは居ても立ってもいられずブラストの隣へと並ぶ。
「翼ってのは各国共通の"王の証"だからな。王の一部を預かる使者を装った偽者なんてのは絶対不可能なんだ」
ブラストは教官らしく二人に教えを説いている。
「なんかすげぇや・・・」
アレスはよく悠久について勉強しているためある程度知っていたこともある。しかし、カイは全くと言っていいほどそのような知識がなかった為、ただただ驚くことばかりだった。
キュリオの手元にある輝く羽は、ランプのような作りになっているガラスの飾りの中にゆっくり吸い込まれていく。そして、ふわりと浮いていて光を放つその姿はなんとも幻想的な光景だった―――
「キュリオ様!加護の灯を私に持たせてくださいませんかっ!!」
そう声をあげたのはアレスだった。ギョっとしたようにカイがアレスを見つめている。
すると、カイを可愛がっているブラストがちらりと彼を振り返った。
「カイ、お前はいいのか?言っとくが使者として指名されるのは数年に一握りの者だけだ。それにあの灯を掲げることが出来るチャンスなんて滅多にない事だからな」
「そ、そうなのか・・・。俺もやってみたいな・・・」
ブラストはニカッと満面の笑みを浮かべるとカイとアレスの背中を押した。
「よし!二人で行ってこいっ!!行きと帰りにわけて持てばいいだろ!」
「はいっ!」
「おうっ!!」
元気よく返事したアレスとカイは"加護の灯"をもつキュリオの元へと走って行く。
「では二人にお願いしよう。これを持つ者は先頭を歩くんだよ」
最初はアレスが持つことになり、その後ろをテトラともうひとりの魔導師。そして最後尾はカイとブラストが並ぶ。
「お前は最後尾じゃというたのにのぉ・・・」
ガーラントはやれやれと顎鬚をなで、ブラストに「まーまー!」となだめられている。過保護なガーラントに、積極的なブラスト。対照的な二人も互いを補う上でとてもよい組み合わせかもしれない。
そしてガーラントは大切にしまっておいたキュリオの書簡を胸元から取り出す。家臣のひとりが近づき、美しい装飾がついた箱の蓋をあけ大魔導師はその中へ書簡をおさめた。
「キュリオ様、書簡はブラストに持たせましょう。よいですかな?」
「ああ、構わないよ」
キュリオが頷いたことを確認し、ガーラントはブラストへその箱を託した。
「はっ!確かにこのブラストお受け取りいたしましたっ!!」
深く一礼し、アレスはキュリオから加護の灯を受け取る。見た目ほど重くはなく小さなアレスでも道中の負担にはならなそうだった。
「これが加護の灯・・・」
キュリオの羽が放つ神秘的な輝きにアレスは魅入られている。いつまでも眺めていたいような、そんな不思議な感覚に囚われていた。
アレスが加護の灯を受け取るとブラストが声をあげた。
「ではキュリオ様っ!!これより使者五名!出発いたします!!」
「ああ、頼んだよ」
微笑みを絶やさぬキュリオと、やや心配そうな目を向けているガーラントらに見送られ一行は国の端にある外門まで馬で移動するのだった。