明星ロマン-6
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その建物は入り口からしてあやしい雰囲気だった。
もちろん室井はこういう場所には縁のない男である。
しかも若い女性を同伴しているというのだから、挙動不審にならざるを得ない。
中はそれなりに冷房が効いていたが、じっとしていても汗が出る。
「どの部屋にしましょうか?」
慣れた感じで彼女がたずねてきた。唇を何度も舐めたのか、そこだけが赤く潤っている。
「ええと、そうだなあ……」
室井は決めかねた。どこでもいいというのが本音だった。
「ここにします?」
パネルのひとつを彼女が指差す。
室井は腹をくくり、うなずいた。後のことは彼女に任せておけばいいだろう。
こうなったらやけくそだ──場の空気になかなか馴染めない室井は、自分の頬をぴしゃりと叩いた。夢ではないなと再認識した。
なにげに視線を移すと、受付フロントのそばにポスターが掲示してあるのが見える。地元で催される花火大会のポスターだ。
夏の夜空を彩る大輪の花は、それはそれは掛け値なしの美しさである。
「去年は見れなかったなあ……」
彼女の独り言が聞こえた。室井がそちらを向くと、彼女もポスターに見入っていた。
彼との関係がほころびはじめたのが、おそらく去年の今頃だったのだろう。
自分の知らない世界が彼女たちのあいだにあったことは間違いない。室井はなんとなく疎外感をおぼえた。
花火大会のポスターのとなりに、もう一枚ポスターが貼ってあった。
犯罪ゼロの町、という文字が並んでいる。
とはいえ実際に犯罪がないのではなく、そういう理想郷をつくりたいと願っているだけなのだ。
ストーカーの被害者である彼女もまた同じポスターを見たが、ぷいとそっぽを向いたかと思うと、芳香を残して歩き出した。
やはり気に障ったようだと室井は思った。
レシートにあるルームナンバーを頼りに、二人してエレベーターに乗り、よそよそしい温度を保ったまま部屋の前まで来た。
そして彼女がドアを開けた瞬間、
「おじゃまします」
と室井は背中を丸めた。
中に入るとますます緊張感が高まってくる。
照明は暗く、窓はひとつもない。いや、内装で窓を隠してあるのかもしれない。
何より目を引くのが、どっしりと横たわる特大サイズのベッドである。
ここでどのような行為がおこなわれるのか、優男(やさおとこ)の室井とて知らないわけではない。