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明星ロマン
【その他 官能小説】

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明星ロマン-16


 4



 行為のあと、室井が先にシャワーを浴び、やはり入れ替わりで久野志織が浴室に入った。
 一緒に入るのは恥ずかしいと彼女が言うので、仕方なくそうしたというわけだ。

 しかし彼は思い直す。曇りガラスに映る艶めかしいシルエットを見てみたい気もするが、室井の興味は別のところに向いていた。
 彼女の素性が知りたいのである。
 こんな生きた化石のような自分をラブホテルに誘ったのには、それなりの理由があったからだろう。

 彼女にはかならず何か秘密がある──室井は再度、久野志織のバッグの中身を探った。
 先ほどよりも勝手がわかっている分、すぐに携帯電話を見つけることができた。
 しかし彼は素直に喜べなかった。電源は入っているようだが、どうしてもロックが解除できないのだ。

 にっちもさっちもいかなくなり、ほかの貴重品を当たってみると、エナメルの黒い財布が出てきた。
 運転免許証くらいは入っているだろう。

 ちょっと見るだけだ──良心に言い聞かせて財布を開けた後、室井は卑しそうに目を見開いた。
 仕切られたスペースに、紙幣やレシートなどがきれいに収まっている。
 診察券、ポイントカード、クーポン券、そして最後に手にしたのが運転免許証である。
 確かに彼女が取得したものに間違いなさそうだ。

 おや、これは一体──そんなふうに目を凝らしていた時だった。

「何をしているんですか?」

 意図しない方向から声がした。ぎょっとした室井は尻餅をつき、おそるおそる声の主を見る。

「室井さん、どうして……」

 軽蔑の眼差しをたたえた久野志織がそこに立っていた。

「これはその、つまり、なんというか……」

「人の財布を勝手に開けるなんて、信じられない」

「違うんだ、ちょっと待ってくれ」

「ケータイものぞきましたよね?」

「見てない。……ああいや、触ったかもしれない」

 最低、という台詞が彼女の口から漏れた。

「そうやって室井さんもストーカーになっていくんですよね、あの人みたいに」

 彼女の表情は冷ややかなものになっていた。
 それに、どこから持ち出したのか、両手で刃物を握っている。
 その切っ先が室井を狙い、鋭い光を放っていた。

「わかった、とりあえず話をしよう……」

 眼前に迫る恐怖を見上げ、哀れな男が床を這う。そこへ久野志織の素足が追ってくる。
 一歩、二歩と、終焉(しゅうえん)へのカウントダウンが刻まれる。

 そして彼女は、

「彼と同じ目に遭わせてあげる」

と感情の抜けた顔でつぶやき、構えていた凶器で室井の腹部を刺した。

 何かが肉にめり込む感覚があった。

 彼と同じ目に、ということは──理不尽な衝撃の中で、室井はある光景を思い描いていた。
 それは、アパートの一室に横たわる、ストーカー男の変わり果てた姿である。
 おそらく自分もそんなふうに扱われるのだろう。

「さようなら」

 無機質な声で最期の別れを告げる彼女。
 その直後、室井の腹部からおびただしい量の血が噴き出した。

 おれの人生はラブホテルで途絶えるのか──赤く染まっていく視界に絶望し、室井は意識を失いかけた。


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