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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 前編-5

ディルバスの支配する領域へ踏み込んで、拾った人間の娘を奪還するためにセリアー二ャはガーヴィを説得することにした。
「私たちだけでは、闇の眷族のテリトリーに侵入することは難しいわ。この街に神官がいなければ別の街に行くか、それこそ王都に行かなくては。ガーヴィは嫌かもしれないけど、権威を利用して協力を要請するしかないと思うの」
「しかたない、そうしよう」
ガーヴィがそう言ったので、セリアー二ャは驚いた。普段は、身分を隠して冒険者として放浪しているガーヴィが誰かのことをこれほど執着していることはめずらしい。
「まず、この街の領主に会ってディルバスが逃げ出さないように見張らせること、あとは王都に連絡して私たちを闇の眷族のテリトリーに送ってくれる術者を派遣してもらわなくてはいけない。できる?」
「たやすいことだ」
夜中に訪問されたこの街の領主にセリアー二ャは少し同情した。思いがけない訪問者に情けないほど萎縮しているのである。
「俺がこの街で見聞したことは知らぬ存ぜぬで関知しないでおこう。だが、皇子としてディルバスか闇の眷族だと知って見過ごすわけにはいかん」
協力すれば罪には問わないが、ディルバスを逃がせば領主を罪人として処刑するとまでガーヴィは言って微笑していた。
ソファーに脚を組んで腰を下ろし、王家の紋章が刻まれた黒革の手袋をはめたガーヴィは、宮廷画家が描いた権威の象徴のような肖像画のようにすら、セリアー二ャには見えた。
「ディルバスとお前との間で何があったのかは興味はない。協力するか?」
領主が実権を握っている街は少ない。有力な職人や商人などが、街を仕切っているのはよくある話である。
「わかりました。尽力させていただきます」
小声で、セントバーナードの犬顔のコボルト族の領主はそう答えた。この街はコボルト族が多い街である。
「この街に神官はいるか?」
「おりません」
ガーヴィの顔から笑顔が消えた。
セリアー二ャにはガーヴィから笑顔が消えた理由がわかっているが、領主はわからない。叱責されるのではないかと緊張した。
「黒猫、頼んだ」
セリアー二ャが領主に遠慮せず、ペンダントの宝石に呪文を詠唱した。
「うわあああっ!」
領主が悲鳴を上げたあと、三人の目の前にさらに二人の人物が瞬間移動で現れた。
領主がひれ伏していた。
「五年ぶりね。黒猫ちゃんが呼んでくれたのかしら。呪いは解けたの?」
「皇女様、御無沙汰しております」
セリアー二ャが直立不動で敬礼する。
「呪いは解けていない。今夜は頼み事があって神官を呼び出したのですが、なぜ姉上がここに?」
紫色の瞳に雪のような白い肌、背丈はセリアー二ャよりも低いが豪奢な金髪に尖った耳のエルフの美女が微笑している。
そばには身なりが良い金髪の少年が眠そうな目で立っているのである。
この国の皇女エルシーヌと従者のジョンである。ジョンは王の飼っている人間のつがいの間に生まれた子で人間である。
「たまたま別件で王都の大聖堂にいたのよ。これから離宮に帰って寝るつもりだったけど、黒猫ちゃんの緊急要請だったから来てみたのよ」
「アルフェス様、こんばんは」
「ジョン、少し背がのびたか?」
ガーヴィがソファーから立ち上がり、少年の髪を撫でると服装を見て「もう神官の仕事をしているのか、えらいな」と誉めた。
王家の姉妹、第一皇女エルシーヌと第二皇子アルフェスが現れたので、領主はひれ伏したままで動けない。
「詳しい事情を聞く時間はあるかしら?」
「皇女様、あまり時間がありませぬ。闇の眷族のテリトリーに私を送って頂きたく大聖堂へ緊急要請を出したのです」
「黒猫ちゃんだけじゃなく、アルフェスも侵入する気なのでしょう?」
「そうだ。姉上、頼まれてくれないか?」
「あなたたちが行かなくても、聖騎士たちを向かわせれば良いのではありませんか」
領主が震え出している。王都から騎士団の兵士がグリフォンやペガサスで多数出兵してきて街を封鎖するような大事になれば、まず自分は裁かれて最悪、その場で責任を追及されて処刑もあり得る。
「闇の眷族の巣を破壊するだけとは事情が異なる。それに今回の相手は伯爵だ。犠牲者を増やすわけにはいかない」
闇の眷族は公爵、候爵、伯爵、子爵、男爵の五段階の階級で分けられている。子爵、男爵は領地を持たずこちら側で遺跡跡などの棲みついた場所をテリトリーとしている。
公爵、候爵以上のものは王であり、獣族とは協定を結び、また友好的ともいえた。
公爵、候爵は王の使者としてこちら側に現れるだけで何か問題があれば協議するだけである。戦ったりすることはまずあり得ない。
伯爵は自分のテリトリーを持ち、また協定に反する行為を行うことは稀であり、またこちら側の獣人として移住していることもある。
こちら側にも魔術や呪術の探究に没頭して禁忌の領域である王のテリトリーまで踏み込んでしまい、命を落とす者もいる。それは自業自得であり、こちら側としては関知しない。
同じようにこちら側で問題行動を起こす闇の眷族に対し、こちら側も自衛権としての討伐が許されている。
ディルバスが黒猫にこちら側に来れるならいつでも会いに来いと挑発する。それは闇の眷族のテリトリーで侵入者が命を落としたとしても、協定には反しないからだ。
獣人の世界は街は大地や空や海でつながっている。あちら側は世界がバラバラに分断されている。ディルバスには、ディルバスのテリトリーがある。
こちら側に自衛権があるように、あちら側にも自衛権がある。獣人の世界に疑似テリトリーを作る男爵、子爵の闇の眷族と、伯爵が異なる点は伯爵はあちら側にテリトリーがあることである。
「アルフェス、その人間の娘と契約を結んでいないのなら、そのディルバスはこちら側に干渉していないことになる。こちら側からの不法侵入になりかねない。奪還するだけなら拉致したと訴えられかねない。だから、必ずディルバスを抹殺しなさい」


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