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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-45

「……勉強があるんだ」
 優也は父親の方を向いて言った。「お父さん、僕が家で勉強してるのすら、知らなかったでしょ? 学校に行ってないから、勉強してるんだ」
「勉強って、お前……。そんなのいわきでもできるじゃねぇか」
「できないよ。教えてくれる人がいないもの」
「教えるぅ……?」
 父親は頭を掻いて息子の言っていることを理解しようとするが、断片的に伝えられる情報だけでは全く状況が掴めなかった。
「家庭教師だよ」
 傍らの兄が語りかける。「おふくろ、優に家庭教師をつけてずっと勉強させてたんだ。ここ数カ月な。すげえ学力上がったって、おふくろも喜んでた」
「家庭教師……」
「そういえば」
 美智子が立ち上がって、思い出したように呟いた。「須藤先生……、お見えにならなかったわね。お通夜もお葬式も」
「須藤先生?」
「優の家庭教師。婆ちゃんがすっごい信頼しててね……、私も一回会ったけど、婆ちゃんがあそこまで信頼してるのはビックリしたなぁ」
 優也の父親は美智子の話を聞いていたが、よし、と大きく頷き、
「わかったよぉ、優。じゃあ、いわきでも家庭教師をつければいいんだろ? いわきだって福島じゃ大きい街なんだ。『家庭教師の何とか』、みたいなのもきっとある。今の雇い主には派遣じゃなく、もうすぐ正規雇用してもらえそうだ。金くらい何とかなる」
 と自分自身にも言い聞かせるように言った。
「叔父さん、そうじゃなくて、須藤先生はね」
 美智子が、祖母がそこまで杏奈を信頼した理由を話そうとしたが、
「なんだ? 須藤だかなんだか知らねぇけど、おふくろの葬式にも出ねえ失礼なヤツだ。だいたい、家庭教師なんて東京だって福島だって同じだろ? 福島はそんなに田舎じゃ――」
「そんなことないっ!」
 話を途中で打ち切る鋭い声が響いて皆が凍りついた。声の主を探し、それが確かに智樹の傍らに立っていた、黙りこむことはあっても声を荒らげることなど見たことがなかった優也であることが分かり、全員が驚きの表情を隠せなかった。
「な、なんだよぉ、優……」
「……先生はそんなんじゃない!」
 と言った。「先生じゃなきゃダメだ! 先生は僕の……」
 大きな声で叫んだ優也は、そのまま杏奈のことを全て吐き出してしまいそうなほど激昂した。その手を智樹がグッと掴む。
「優……、よせ。怒って考えもなしに色々言っちまったら……、……、須藤先生が困っちまうだろ?」
 まだ関係が終ったことを知らぬ優也は、智樹を睨みつけると手を振りきって、今度こそ居間を出て行く。
「おーいっ、優。俺は連れて行くからなぁ!」
 父親の呼びかける声がしたが、優也は乱暴に自部屋のドアを閉めた。
 しばらく父親は祖母の家に留まっていたが、雇い先から貰った忌引き休暇が終わると、いったんいわきに帰らなければならなくなった。家に居る間中、優也の説得を試みたが、いつも最後は父親は怒鳴りつけ、優也は頑なな拒絶で部屋に閉じこもる言い合いで終ってしまった。翌朝にいわきに帰る日には、無理矢理縛りつけてでも優也を連れて行こうとした父親に対し、優也は部屋の内側からタンスでバリケードを作ってしまった。
「……おっちゃん。まぁ、なんだ、その……、優もまだ婆ちゃんのことを振りきれてねぇのさ」
 二人を心配してちょくちょく立ち寄っていた智樹が現場に遭遇して、ドア越しに怒鳴りつけていた父親を宥めた。
「そんなこと言ったってよぉ」
「ちょっとさ、時間置かせてやってくれよ。おっちゃん、戻って色々手続きあるんだろ? その間、俺がここに住んで優の面倒みておくからさ」
 智樹がとりなすと、不承々々に父親はいわきへと戻っていった。
「――優に会ってくれないか。あいつをどうにかできるのは、婆ちゃんがいなくなったら、お前しかいないんだ」
 その日のうちに智樹は杏奈に電話をした。
 祖母が息を引き取った日から、杏奈はずっと家にいた。通夜と葬式に参列しないのは、あの日自分の全てを赦してくれた祖母に対してこの上もなく失礼なことをしていることは分かっていた。だが祖母の死に姿を見ることも、そして優也がそれにまみえているのも、とても見ることはできなかった。
(優くん……)
 会いたい。祖母を失って打ちひしがれている優也を強く抱きしめたかった。しかしいくら祖母に信頼されていたとしても、祖母が秘密を守ったまま逝ってくれたのをいいことに、優也に会いたいという利己的な理由で久我山家の輪の中に入っていくことはできなかった。
 大学にも行かず、部屋の中でずっと優也のことを考えていた。優也を頭の中に巡らせて、一歩も外に出れない身になってしまう、そんな服罪なのだと思えた。優也が無邪気な目でキスをせびってくる、そんな日はもう二度と訪れないと想像すると、堪らなく悲しかったし、身勝手な心が嫌になった。しかし優也を恋しく想う気持ちは一向に収まらず、むしろ日を追うごとに強くなっていった。そういう罰を受けているのだ。


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