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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-44

「でも、優也が子供であるばっかりに、先生がとても苦しんでいるんだろうと思いました。女だって……、女のほうから男性を求めたいって思いますわよね。それができないのは、とても苦しいってわかりますわ」
 祖母はもう一度言った。「私も女ですからね。……世間が何ですか。優也は私の可愛い孫ですよ? 親バカなんです。……バカの血筋は私の血でしたね」
 と言って祖母は笑った。
 ――その夜、智樹から祖母が病院に運ばれたと連絡があった。心筋梗塞だった。杏奈は病院にかけつけたが、迎えた智樹が目を赤くして、いきなりだった、間に合わなかった、とだけ言った。
 病室に入ることはできなかった。あの言葉をくれた人は、その日のうちにいなくなった。まるで燃え尽きる命の最期の炎を使って、自分を救いに来てくれたように思えた。呆然となって廊下の長椅子に座っていると、深夜になって美智子と俊彦が来た。病室から美智子の大きな泣き声が聞こえてくる。
「すまん、糖尿があるなら、もっと早く聞いて、精密検査を薦めておくべきだった。……併発していると見つけにくいんだ」
 病室から出てきた俊彦は、智樹の肩を叩いて謝った。
「私、今日……」
 二人が呟く杏奈に目を向けた。「お婆ちゃんと、お団子……。食べた……」
 杏奈の前に、俊彦がしゃがみ、
「須藤さん、それは違う。昼に食べたものが夜になって心筋梗塞は引き起こさない。団子程度ではそんな風にはならない。わかりますね? 君のせいじゃない」
「寿命だよ」智樹が手をポケットに突っ込んで立ったまま言った。「――お迎えが来ただけだ」
 朝方になると一人の男が転がるように病院に駆け込んできた。
「おふくろっ!」
 杏奈はまだ長椅子から立ち上がれずにいた。男は作業着のままだ。優也の父親は報せを聞いて、夜行バスも待たずにタクシーを飛ばしてきたのだった。部屋の中から号泣が聞こえる。杏奈は優也の父親に挨拶をするという気づきすらなく、その谺する号泣に耳を塞いだ。優也は病室にいるのだろうか。姿を見ていない。
「伯母ちゃんたちは朝一番の飛行機で、着くのは昼前くらいになるるってさ」
 もうすぐ北海道から長女たちがやってくる。智樹の言葉に杏奈は項垂れたまま立ち上がった。私は何故ここにいるんだろう。ここには久我山家の人しか居ない。
 何も言わず廊下を歩き始めた杏奈に、
「おい、杏奈っ……」
 別れたことを忘れて名を呼んだ智樹が声にも無反応で、杏奈は外へ出た。





 キッチンのドアが開いている。主を失った台所は閑寂としていた。テーブルに季節には遅い素麺が置かれていた。
「……残ってたから、自分でやったんだけど、マズくてな。婆ちゃんにはかなわねえや」
 キッチンを見やっている杏奈に向かって智樹が言った。
 財産分与などは生前からしっかりと決めていたため、特に問題は発生しなかった。唯一の残る問題は優也の存在だった。葬式が終わり、親族が集まって優也をどうするか話し合いが持たれた。最初、この家を相続する智樹の父が、成人まではこの家で面倒を見ると言った。
「優の親父は俺だ。兄貴に迷惑はかけられない。俺がちゃんと面倒を見るよ。そもそも、これまでおふくろに頼っていたのが間違いだったんだ。甘えてたんだ」
 しかし優也の父親がそう言った。
「そんなこと言ったって良次、お前一人じゃどうにもならねえだろ?」
「いや、しっかりやる。……おふくろには心配ばっかりかけたんだ。しっかりやるよ。……なぁ、おふくろ……」
 と言って、通夜からずっと泣き通しだった優也の父親は、祖母の骨壷に縋ってまた涙ぐんだ。弟の頼りなさはよく知っている智樹の父親は、姉と顔を見合わせた。信用していいのか、という疑問はあったが、やはり実の父親がその意志を表明するならば、姉兄であっても強くは反対できないと思った。
「……僕は行かない」
 だが、優也は父親を信用していない、という面持ちで口を開いた。
「優……」
「福島なんかには行かない」
「いやぁ、優」
 父親は洟水を啜り、「いわきはそんな怖えとこじゃねぇんだ。放射能とか、心配いらねぇ。みんな普通に暮らしてるよ」
「そういうことじゃないよ。お父さんは何もわかってない」
 優也は立ち上がって出て行こうとした。だがキッチンの椅子を持ってきて入口近くに座っていた智樹が、
「……優。大事な話だ」
 と腕を伸ばして行く手を阻み、優也を無理矢理振り返らせた。お婆ちゃん子だったからねぇ、と北海道の伯母が呟いた。
「優」
 美智子が傍までやってきて、「そういうことじゃない、ってどういうこと?」
「……」
「黙ってたら、大人たちが変に決めちゃうよ?」
 しゃがんだ美智子に見上げられ、優也は静かに口を開いた。


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