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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-26

「写真、撮るの?」
「うん、記念写真」
「……え、だって」
 智樹にでも見られたらどうするつもりなのだろう。従兄の存在を思い出し、キスをした後ろ暗さで優也が躊躇していると、
「ほらほら、早くっ。……もー、たかが写真じゃん」
 全くためらいなく杏奈が近くに顔を寄せてくる。また鼻先に漂ってきた杏奈の香りに誘われるままに本を掲げると、シャッター音が聞こえた。
「いいかんじだ」
 杏奈が見せた画面の中で、東京タワーを背景に麗しい笑顔をみせる杏奈と、はにかんだ優也が写っていた。「よしっ、そろそろ帰ろっか」
「……先生」
 身を離そうとした杏奈の携帯を持った手首を、優也は思わず握って引き止めた。
「ん? なに?」
「……、その……」
 杏奈がベンチを踏み直し、もう一度優也の顔の前まで近づく。
「なーに?」
「もう一回だけ、キス、して、……いいですか?」
「なぜ今んなって敬語だ?」
「許可無くしたら、……ダメなんでしょ?」
「うん、ダメ。でも、いちいち『していいですか?』なんて聞くのも、ダメ」
「どうしたらいいの?」
「したくなったら、するよーって、オーラ出して近づいてきたら? キスしたかったらよけないよ」
「……難しいよ」
「いいから、してみなよ……?」
 杏奈の囁きがからかいであるのはよく分かっていた。だが間近に見える許可の表情が嬉しすぎて、優也はもう一度杏奈の唇に触れた。
 杏奈は優也を家に送り、祖母に何度も礼を言われた後、頻りに夕食に誘われるのを丁重に断って帰路についた。電車の中でドアに凭れ、スマホのフォトフォルダを開いて優也と撮った写真をもう一度見た。思わず笑みがこぼれる。
(かわいいなぁ……)
 しかし、そう思ってすぐ、杏奈の表情は曇った。
(ヤバいな、これ)
 優也に外の楽しみを知ってもらうつもりだった。だが楽しんでいだのは自分のほうだったかもしれない。だって、楽しかったんだもの、と心の中で言い訳しても、許されないような気がした。
 何故こんなことをしてしまったのかよく分からなかった。自制心の欠片もなかった。半蔵門線の中で、急に帰りたくなくなったのだ。優也が積極的に求めたわけではない。求めるような子ではない。
 杏奈のほうから優也の手を引いて、智樹も知らぬお気に入りの場所へ導き、抱き寄せ、唇を授けてしまった。優也が自分のキスに体を震わせているのを感じて、杏奈もたまらなく体が震えた。少年の体に触れ、その無垢な恋心をキスで癒やす女を演じながら、体の奥から邪な疼きが溢れてきそうになった。
「ヤッバいなぁ……、ほんとに」
 杏奈は今度は声に出して、ドアのガラスに映り込むスカイツリーの歪んだ光を眺めていた。





 避暑地に行くぞー、と高々と拳を上げた智樹の掛け声に、誰からも発声はなかった。
「おいおい、どうしたよ? 夏だぜ、みんな?」
 さて休憩しようか、というところにリビングから智樹が呼ぶ大声が聞こえた。杏奈と優也がリビングに入ると、腰に手を置いて仁王立ちしている智樹と、座って困った顔をしている祖母がいた。
「あんたって子はまた急に……。行くって、どこに行くんだい?」
「避暑地っつったら婆ちゃん、昔っから軽井沢って相場が決まってんだろ?」
「いつ行くんですか?」
 杏奈は祖母の前ではまだ智樹に対して敬語を使っているが、二人が付き合っているということは何となく祖母に伝わっていると思われた。
「来週」
「無理、じゃないですか? 別荘でも持ってるならともかく、今から急になんて、どこも空いてないと思います」
「そうだよ」
 杏奈の言葉に祖母が溜息をついて何度も頷いた。
「ふふっ」
 しかし智樹が誰に対してか分からない勝ち誇った笑いを浮かべ、「それがだなぁ、あるんだ。ある人のツテでコテージが貸してもらえるんだよ。なあ、優。バーベキューできるぜ? バーベキュー。森の中で食うと旨いんだ、これが」
「優也も連れていくのかい?」
 祖母が驚いた顔を見せると、
「何言ってんだよ。婆ちゃんも行くんだぜ?」
「私もかい? いいよ、この歳になって、そんな遠出は……」
「僕も別にいい」
 優也もあっさりと断る。
「いやぁ……、それじゃ困るんだよ、婆ちゃん」
「困るって、何が困るんだい」
「いや……、ま、何つーか……」
「……あんた、何か隠してるね?」
 智樹はその場にあぐらをかき、鋭い目に変わった祖母をチラチラを見ていたが、観念したように膝を叩いた。
「実はさ、姉ちゃんも来るんだ」
「美智子が? ……あの子休み取れるのかい?」
「シフト調整して頑張ったらしいぜ。……そんでだな、もう一人……」
「もう一人?」
「……てか、姉ちゃん、結婚したいんだってさ」


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